子どもに幸せな人生を歩んでほしいと願うのは、親としての当たり前の感情です。ただ、「よりよい将来のため」と、過剰な教育を子どもに強いてしまうと、子どもが精神に変調を来し、健やかな成長につながりません。それどころか、青年期や大人になってから不安障害やうつ病といった精神疾患を発症してしまうことすらある、と専門家たちは指摘します。

「教育虐待」などと呼ばれ、近年、社会的に注目されるようになってきたこの問題について考える本特集。第4回までの記事では、主に「親が子どもに教育虐待してしまうことを避ける」ための方法をまとめてきましたが、今回の記事では、「親自身が、その親などから教育虐待を受けてきた」という人に、その影響を断ち切るための方法をご紹介します。親自身が受けてきた教育虐待は、子どもに連鎖しやすい、と専門家は指摘します。呪縛から自らを解放するためのポイントをひもといていきます。

【これって教育虐待ですか?】特集
(1) 親の過剰な期待 子に取り返しつかない弊害もたらす
(2) 「教育熱心」と「教育虐待」線引きはどこに?
(3) 子の幸せ見極め教育虐待を防ぐ NGワード&考え方
(4) 当事者が語る「こうして教育虐待から抜け出しました」
(5) 教育虐待 被害者が加害者になる負の連鎖を断ち切る ←今回はココ

【連動マンガもぜひお読みください】
(1) 「うちは大丈夫」「皆やってる」が危ない教育虐待
(2) 「親の期待に応えたい」子にさせる忖度が虐待を生む

約30%が「教育虐待を受けた認識あり」。連鎖を危惧する声も

 今回の教育虐待特集に関連して、日経DUALが行ったアンケートでは、「自身が親などから教育虐待を受けてきた」と明確に認識をしている人は、回答者94人中27人(28.7%)に上りました。

 その影響として、大人になった今でも「自分で選択、決定することができない」「自分が本当に好きなものが何なのか分からない」「自己肯定感が低い」「自信が持てない」「無気力になり能動的に動けなくなった」「親への嫌悪感から断絶が続いている」などの声が上がりました。(アンケート結果は本記事の3、4ページで紹介)

 また、少なからぬ人から、「いい成績を取らないと価値がないという考え方が染み付き、無意識に子どもにも強要してしまう」「習い事の練習を強いてしまう時、虐待の連鎖かもしれないと悩む」などと、自分自身の子どもに対する連鎖を危惧する声が寄せられました。

教育虐待の影響は世代を超えて波及し続ける

 東京成徳大学教授(心理・教育相談センター長)で、長年、小・中学校のスクールカウンセラーを務めてきた田村節子さんは、この教育虐待の連鎖についてこう語ります。

 「“世代間伝達”という言葉がありますが、自分の親と、その子どもである自分の関係が近過ぎる場合、親は自分が何歳になろうと、いつまでも口を出し続けます

 これを放置してしまうと、親の価値観がそのまま自分の中で残り、さらには親にとっての孫に当たる、子どもにまで引き継がれてしまう。その影響は、3世代目に最も強く出るといわれます。自分の親が偏った考えの持ち主で、極端な教育偏重型だった場合、孫に当たる自分の子どもに最も大きな悪影響が表れてしまうということです。問題行動を起こすだけならまだましで、子どもを深刻な状況に追い詰めてしまうこともあります。ただし、自分自身が、この構図に気付き、呪縛から抜け出すことができたら、この不幸の連鎖を食い止めることができます

夫婦間のつながりを強化する

 田村さんが「呪縛から抜け出す方法」の一つとして勧めるのは、「自身の親ではなく、夫婦間の横のつながりを強化すること」です。

 「親とべったりした関係を続けてしまうと、親から植え付けられた価値観が、自分の中でより強化されていきがちです。しかし、夫婦が精神的に強く結び付いて、よくコミュニケーションを取っている家庭の場合、どちらかの親が極端な教育偏重型だったとしても、自分たちの世帯に及ぶ影響を薄めることができます。なにより、夫婦仲がいいと、子どもが安心します。子どもが健やかに自立していくためには、安心感を与えることが何より大切です」

写真はイメージ
写真はイメージ

 それであれば、思い切って親と一定の距離を置くのが一番かもしれません。しかし、共働き家庭の場合、子どもを預けるなど、親のサポートが必要不可欠で、距離を置くのが非現実的な場合も少なくありません。それでも、親を頼りきったり、言いなりになったりするのではなく、意識して心の距離を置き、ある程度自立した関係を目指すことが必要だということです。

<次のページからの内容>

● 学歴志向が強い日本のシステムに根本の原因がある
● 「教育虐待を受けてきた人」に共通する特徴とは?
● 「徹底的に子どもの要求に寄り添う」ことが自身を救う
● 「幼少期のことは思い出したくない」。教育虐待の被害者たちが苦しい胸の内を吐露
● 私たちは、こうやって教育虐待の影響を断ち切った