子どもに幸せな人生を歩んでほしいと願うのは、親としての当たり前の感情です。ただ、「よりよい将来のため」と、過剰な教育を子どもに強いてしまうと、子どもが精神に変調を来し、健やかな成長につながりません。それどころか、青年期や大人になってから不安障害やうつ病といった精神疾患を発症してしまうことすらある、と専門家たちは指摘します。

4回目となる今回は、子どもの教育で試行錯誤を繰り返し、「かつては教育虐待をしていたかもしれない」と語る3人のママの体験談をご紹介します。次第にエスカレートしていった教育の先には、どのような現実が待ち受けていたのでしょうか? それぞれの「気付き」を経て、教育虐待から抜け出していくまでを、親目線で語っていただきます。

【これって教育虐待ですか?】特集
(1) 親の過剰な期待 子に取り返しつかない弊害もたらす
(2) 「教育熱心」と「教育虐待」線引きはどこに?
(3) 子の幸せ見極め教育虐待を防ぐ NGワード&考え方
(4) 当事者が語る「こうして教育虐待から抜け出しました」 ←今回はココ
(5) 教育虐待 被害者が加害者になる負の連鎖を断ち切る

【連動マンガもぜひお読みください】
(1) 「うちは大丈夫」「皆やってる」が危ない教育虐待
(2) 「親の期待に応えたい」子にさせる忖度が虐待を生む

「僕なんて、生まれてこなければよかった」と言われて

● 「私立受験経験のあるママ」×「小6の息子」の場合

 息子に中学受験をさせようなんて、最初は全く思っていませんでした。基本に据えていたのは、あくまで学校の勉強。それでも成績はよかったので、何も心配してはいなかったのです。

 ただ、一つだけ気になっていたのは、息子が通うことになる地元の公立中学が、非常に荒れていたことです。私は自分が私立中学の出身で、私立ならではの充実した学習環境を知っていましたから、次第に、「勉強が嫌いではないのなら、私立という選択肢もあるのではないか」と考えるようになりました。息子が4年生になったタイミングで、手始めに全国の学習塾で一斉に行われる「全国統一小学生テスト」を受けてみることにしました。

 もちろん結果は散々でしたが、本人はそのテストから、自分の通う学校では得られない学びがあることに気付いたようでした。私立への進学に興味を持ち始めたので、「塾に通って、私立を受験してみる?」と聞いたところ、「やってみる」という返事があったのです。

 週に2日、学校終わりに電車で塾に通う生活が始まりました。5年生になると塾の日は週3日に増え、土日や祝日にもテストが行われるようになりました。息子はそれまで続けてきた少年野球を辞め、塾での勉強に集中することにしましたが、勉強のペースもぐっと早くなり、本人としては「頑張っているのに、成績が上がらない」という苦しい状況が続いていたようです。

 この頃からです。本人の頑張りと、私の思う「これくらいはやっておくべき」という価値観に、ギャップが生じるようになったのは。私からすると、どうしても息子がベストを尽くしているようには思えなかったんですね。

<次のページからの内容>

● 塾のスピードについていけない息子。私が勉強を主導するように
● このままではいけない。息子との話し合いの結果は……
● 「ママ、ごめんなさい」と私を見る息子のおびえた目
● 自分もかつては、教育虐待の被害者だった
● 夫に「怒られるか、怒られないか」で物事を判断する息子
● 怒鳴る夫をたしなめ、夫の自己肯定感を下げていたのは私だった
● 夫へのダメ出し。やめると、夫も息子も変わった