子どもに幸せな人生を歩んでほしいと願うのは、親としての当たり前の感情です。ただ、「よりよい将来のため」という意図であったとしても、過剰な教育を子どもに強いてしまうと、健やかな成長につながりません。それどころか、青年期や大人になってから不安障害やうつ病といった精神疾患を発症してしまうことすらある、と専門家たちは指摘します。

「教育虐待」などと呼ばれ、近年、社会的に注目されるようになってきたこの問題、子育て中の親なら誰もが無関心ではいられないはず。本特集では、教育虐待の定義や、起こる理由、予防策や解決策まで、複数の専門家に幅広く取材しました。「実際に子どもに教育虐待をしてしまった」という当事者たちの声も紹介。「共働き家庭ならではのリスク」についても、深掘りしていきます。

第1回は、教育虐待がもたらす「取り返しのつかない弊害」について紹介します。

【これって教育虐待ですか?】特集
(1) 親の過剰な期待 子に取り返しつかない弊害もたらす ←今回はココ
(2) 「教育熱心」と「教育虐待」 線引きはどこに?
(3) 子の幸せ見極め教育虐待を防ぐ NGワード&考え方
(4) 当事者が語る「こうして教育虐待から抜け出しました」
(5) 教育虐待 被害者が加害者になる負の連鎖を断ち切る

【連動マンガもぜひお読みください】
(1) 「うちは大丈夫」「皆やってる」が危ない教育虐待
(2) 「親の期待に応えたい」子にさせる忖度が虐待を生む

自分ではセーフと思っていても、実は度を越している可能性も

 宿題をせずに遊んでいる子どもに「ちゃんと宿題しなさいよ」と注意したり、「もっと頑張ろうね」とはっぱを掛けたり、というのは、子育て中の家庭ではよくある光景です。子どもにきちんと教育を受けさせることは親の義務。その責任を果たすために、適度な範囲で適切な声かけをすること自体は、問題はないと言えるでしょう。

 ですが、人はいつも同じように子どもに接することができるわけではなく、つい厳し過ぎる言い方になってしまうことはあるはず。また、「適度」「適切」と感じる度合いは人によって異なるので、自分ではセーフと思っても、実は世間的には度を越した言動になってしまっている可能性もあります。

 例えば、
・ 難関中学を受験させるため、小学校低学年のうちからいくつも塾や家庭教師を掛け持ちし、夜遅くまで勉強させる
・ 将来、偏差値の高い大学に行き、社会的地位の高い仕事に就くことを家庭内での前提にする
・ 「何事も一番であれ」と発破を掛ける
・ きょうだいのうち、成績のいい子どもばかり大事にし、そうでない子どもと差をつける
・ 「一度でもレールから外れたら、転落人生を歩むことになる」などと脅す
……といった行為は、教育虐待に当たるといわれます。

 スポーツや音楽といった「習い事」関連も対象外ではありません。例えば「まだ保育園児なのに、土日を習い事で埋め尽くし、自由に過ごす時間を与えない」といったことも問題行為だと専門家は見ています。

写真はイメージ

 教育虐待の「定義」や、「教育熱心」との線引きについては、2回目の記事で詳しく解説しますが、まず、目を向けたいのは、その弊害。

 「親の要求や期待に応え続けるということは、子どもにとって、本来の自分を否定され続けることに他なりません。そうした経験を積み重ねると、子どもは精神に変調を来しやすくなります。児童や思春期の子どもというのは、実は精神疾患を最も発症しやすい時期。すぐに異変が出なかったとしても、精神疾患を発症する下地がつくられます。すると、進学や就職など、環境が激変するタイミングなどで変化に対応できなくなり、不安障害やうつ病を発症してしまう、といったことは少なくありません」。青山学院大学教育人間科学部教授で、神経・精神疾患を専門とする小児科医の古荘純一さんはそう説明します。

 たとえ親の期待通りに、偏差値がトップレベルの大学に入学できたとしても、その後すぐに授業に出られなくなったり、就職できずにそのままニート生活に入ったりしてしまう、ということは珍しくないようです。