子どもの好奇心、感受性の豊かさを侮ってはいけない

 他にも、つり下げられた器の中に柄杓で水を入れていく「宥座之器(ゆうざのき)」という仕掛けも子ども心をつかんだようだった。少な過ぎず、入れ過ぎず、ちょうどよい水量を保たないと器から水がこぼれてしまう。これは孔子が説いた「中庸=過不足なく調和が保たれているさま」の教えを学ぶためのもの。やってみると、いいあんばいに水を入れることがなかなかできず、中庸というのは意外と難しいのだなあと考えさせられた。

 一方の娘はというと、水をすくって入れるだけでもう楽しくて仕方がないといった様子である。中庸どころか、水をバシャバシャ入れまくっている。なるほど、この歳の子どもは調和やバランスなんてちっとも考えない。むしろその伸び伸びとしたさまこそ良いのかもしれない、などと感じ入ってしまった。

実体験を通して学べる仕掛けがユニークだ
実体験を通して学べる仕掛けがユニークだ

 蓋を開けてみると、足利学校は子連れでも十分に満喫できるスポットで、心配は杞憂に終わった。史跡観光なんて子どもには楽しめないだろう、と行く前はちゅうちょしていたが、どうやらそれも親の偏見にすぎなかったようだ。

 個人的には、子どもの好奇心の旺盛さ、感受性の豊かさを侮ってはいけないのだな、と反省させられる旅でもあった。小さな子にとっては見知らぬ場所へ行くという行為自体、大人が考える以上に刺激的なのだ。

 以前に正月の初詣で神社へ行ったときのこと。今回と同じように、神社なんて子どもには面白くないだろうなあ、と行く前から身構えていたが、結果的には何の問題もなく楽しめたことを思い出した。初詣の神社はお祭りのような活気があって、そういうにぎやかなところも子どもには案外受けが良かった。

 結局のところ、重要なのは発想力なのかもしれない。どこで遊ぶかよりも、どう遊ぶか。何もない原っぱでさえ、子どもにとっては遊び場になる。おもちゃがなくても、遊具がなくても、豊かな想像力を膨らませればいいのである。

連れてきて良かったと一安心
連れてきて良かったと一安心

関連リンク
史跡足利学校
http://www.city.ashikaga.tochigi.jp/site/ashikagagakko/

【今回の行程】
■行き

12:25 新宿駅発 → 12:39 赤羽駅着(JR埼京線快速)
12:45 赤羽駅発 → 13:22 久喜駅着(JR東北本線)
13:32 久喜駅発 → 14:02 足利市駅着(東武特急りょうもう17号)

■帰り

18:14 あしかがフラワーパーク駅発 → 18:53 小山駅着(JR両毛線)
19:07 小山駅発 → 20:00 赤羽駅着(JR快速ラビット)
20:05 赤羽駅発 → 20:20 新宿駅着(JR埼京線)

※足利市駅から足利学校まではタクシーで5~6分
※2018年12月現在、土曜のダイヤ

吉田友和
旅行作家
吉田友和 1976年千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2002年、初海外旅行ながら夫婦で世界一周を敢行。2005年より旅行作家として本格的に活動を開始。国内外を旅しながら執筆活動を行い、短期旅行を中心に、ここ数年は“半日旅”にも力を入れている。著書は『3日もあれば海外旅行』『10日もあれば世界一周』(共に光文社新書)、『思い立ったが絶景』(朝日新書)や自身をモデルとしてドラマ化もされた『ハノイ発夜行バス、南下してホーチミン』(幻冬社文庫)など多数。近著は『東京発 半日旅』(ワニブックス)。