ザリガニ釣り専用の竿と、自作の竿の2本を持参
ザリガニ釣りで必要な道具は竿と餌、網、バケツである。僕たちはインターネットで買ったザリガニ専用の釣り竿と、適当な棒にひもをくくり付けただけの自作の竿の2本を持参した。市販品のほうが見た目はしっかりしているが、機能的には自作のものでも大差ない。
餌も、ザリガニ釣り専用のものを入手済みだったが、それとは別にコンビニで「さきいか」を買っておいた。どちらのほうが釣れるか、比較してみようと思ったのだ。網とバケツは百円均一の店で購入。
いずれにしろ、ザリガニ釣りでは大仰な道具は要らない。一度道具をそろえてしまえば、あとは餌代ぐらいしかお金がかからないし、コストパフォーマンスの高い遊びといえるだろう。
竿を2本持ってきたのは、親用と子ども用でそれぞれ1本ずつ使うためだ。長女に「早く、早く」とせっつかれながら急いで道具を準備する。そのまま手ごろな浅瀬に釣り糸を垂れると、妻から物言いがついた。
「先にバケツに水をくんだほうがいいわよ」
鋭い指摘である。確かに、釣れたザリガニを入れるバケツには、あらかじめ水を入れておくべきだろう。子どものころに夢中になったという話はどうやら本当のようだ。妻は最近の言葉でいえば、ザリガニ釣りの「ガチ勢」らしい。
とはいえ、バケツ以前に、釣れなければ話にならない。時々ポイントを変えたりしながら、しばらくやってみたのだが、垂れた糸は微動だにしない。釣れる気配が全く感じられなかった。
本当にザリガニはいるのだろうか…。水は濁っており、池の中の様子はまるで見えない。
意気揚々と始めてみたものの、全く釣れないとなるとトーンダウンしてしまうのが常。長女は早くも飽きたのか、竿を放り出してしまった。これでは父親の面目が丸潰れである。
糸の先に食らいついたザリガニを見た瞬間、我を忘れて興奮!
このままではらちが明かないので、いったん竿を引き揚げて情報収集することにした。施設の管理事務所に立ち寄り、スタッフの人に聞いてみると、またまた衝撃の一言が。
「ああ、そこの池にはザリガニはいませんね。いるとしたら、水路があるこの建物の裏手のほう。でもまだ季節的にちょっと早いかも」
…どうやらザリガニのいない池で無駄に時間を費やしてしまったようだ。最初から聞き込みをしておけばよかった。
釣れるかどうかは、そこにターゲットがいるかどうかにかかっている。そんな当たり前のことを痛感したのは、情報を参考に場所を変えた途端に事態が進展したからだ。
垂らした糸が引っ張られた気がして、僕は竿を勢いよく引き揚げた。
すると、糸の先のさきいかに、黒々としたザリガニがはさみで食らいついていた! 僕は我を忘れて興奮した。「うおおおっ」と叫びたくなった。アドレナリン出まくりである。
ところが、竿を引き揚げようとした瞬間、逃げられてしまった。うわあ、悔しい。
「かかったら、すぐに網ですくったほうがいいかもね」
興奮さめやらぬ僕に、横から妻が冷静な指摘を入れてくる。言われた通り、今度は網を構えながら同じ場所に糸を垂れる。水面がガサゴソと揺れているのが見えた。あそこにいそうなのだが……ダメだ、なかなかかからない。さっきはマグレだったのだろうか。
そうこうするうちに長女は完全にやる気がなくなってしまったのか、お菓子が食べたいと駄々をこね始めた。見るからに機嫌が悪そうで、こうなると、どんなになだめても無駄というか、もはやザリガニどころではなくなる。
仕方ないので、少しだけお菓子を食べさせることにした。しかもお茶は飲みたくないとワガママを言うので、特別にジュースも買ってあげた。そんなやり取りを尻目に、妻がやおら動き出した。