生後8カ月の次女を妻が背負い、僕はバックパックを引き受けた

 初めての山登りへ出かけたのは、3月中旬のことだった。季節の変わり目ながら、幸いにもうららかな日和で、山で遊ぶには最高のコンディション。

 スタート地点はJR北鎌倉駅である。レトロな駅舎を後にし、目の前の車通りを鎌倉方向へと10分ほど歩き、踏切の手前の路地を右に入ると浄智寺にたどり着く。

 この浄智寺の裏手から始まる山道が今回のお目当てだ。その名も「葛原岡・大仏ハイキングコース」という。途中で源氏山公園を経て、最終的には大仏で有名な高徳院のそばへ出る。鎌倉のハイキングコースの中では定番の一つらしい。

 竹林に囲まれた、いかにも鎌倉らしい雅な風景が広がる浄智寺の前で、一家で記念撮影。それから、いよいよ上り坂を歩き始めた。

浄智寺の前でパチリ。家族写真を撮るのも子連れ旅の楽しみの一つである
浄智寺の前でパチリ。家族写真を撮るのも子連れ旅の楽しみの一つである

 登山口の場所を確認するのに寺の受付の人に聞いたところ、「結構な山道ですよ」と忠告を受けた。我々が小さな子連れだったのを見て、親切心で教えてくれたのかもしれない。

 そうそう、最初に補足しておくと、この日のメンバーは総勢4人である。我々夫婦と2歳半の長女に加え、生後8カ月の次女も連れてきている。次女はまだ歩けないから、基本的にはおんぶだ。

 協議した結果、次女を背負う係は妻に決まった。抱っこひもの定番「エルゴ」を後ろ向きにしておんぶする。そして僕はバックパックを背負うことになった。お弁当やおやつのほか、着替えなど一家全員分の荷物をすべて同じバックパックにまとめたので、ズッシリと重い。重量的には次女のほうが軽いから、ということでこのような形で役割分担することにしたのだ。

 長女だけでも手がかかるのに、赤ちゃん連れとなるとさらに心配事も増える。かといって置いていくのもなんだかかわいそうな気がして、思いきって同行させることにした。かくなるうえは、歩けない赤ちゃんまで道連れにしてしまえ、というわけだ。

 そもそも、出発前は楽観視していた。富士山のような本格的な山ではなく、あくまでも低山、しかも鎌倉である。

 「山登りというより山歩きといったほうがいいかもね」

 「……裏山みたいな感じかしら」

 夫婦でそんな会話をしていたくらいで、きっと楽勝だろう、などと侮る気持ちもあったのだが――。

このころはまだ、余裕があったのだが…。
このころはまだ、余裕があったのだが…。