人生100年時代といわれる現代。人生後半でのキャリアチェンジや、子育てが終わってからの人生も見据えた「夫婦のチーム力」とは? 人生のさまざまな局面で、夫婦間でバランスを取りながら、お互いをサポートし合い、家族も夢(キャリア)も諦めない。そんな人たちの生き方を、インタビューを通して紹介します。

今回は、インターネット広告事業を手掛ける会社で社員として働きながら、グループ会社の社長も務める金原高明さんのストーリーです。金原さんは、厚生労働省が表彰する「イクボスアワード」を2014年に受賞した、初代イクボスでもあります。金原さん夫妻は出産・育児をどのようにして支え合い、その後訪れた夫婦の危機をどう乗り越えてきたのか。その中で大事にしていることや仕事への取り組み方などについて聞きました。

【「夫婦×キャリア」チーム力の新方程式 特集】
(1) 澤穂希 子育ての一瞬に全力で向き合い悔いは残さない
(2) 澤穂希 家族はチーム 愛情も要望もきちんと伝える
(3) 絶望した出産トラブル 家庭も仕事も諦めなかった
(4) 初代イクボス「夫婦の危機を乗り越える」秘訣とは ←今回はココ
(5) 夢は海外移住 どこでも仕事可のフレキシブル夫婦
(6) 大企業を辞め起業した夫&応援も自己実現もする妻

金原高明さん(40歳)
Septeni Japanクリエイティブ本部本部長、Septeni Ad Creative代表取締役。2006年セプテーニグループに入社、クリエイティブ職に従事。2010年関西支社勤務、2013年東京本社勤務を経て、2017年4月に広告クリエイティブ制作に特化したSepteni Ad Creativeの代表取締役に就任。2014年に「イクボスアワード」受賞。家族は妻、長男(10歳)、長女(7歳)と、愛犬のチワワ。

赤ちゃんの顔を見た瞬間、パパスイッチがオン

 金原さんが妻と出会ったのは、2004年、異業種交流会でのこと。第一印象は「元気な女性だな」というものだった。英語が堪能という、自分にはないスキルを持っている部分にも引かれ、付き合いが始まった。

 2007年に結婚し、2008年には長男が生まれた。積極的に「子どもが欲しい」と思ったことはなく、生まれるまでは「父親になる」という実感もなかった金原さん。しかし、里帰り出産だった妻の元に駆け付け、長男の顔を見た途端、「パパスイッチが入った」という。

 「僕の子どもなんだ。この子をしっかりと守らないといけないんだ、という気持ちになりました」

 産後1カ月で妻が自宅に戻ってきてからは、フィフティーフィフティーに近い形で育児や家事を担当。

 「妻は育休中で家にいましたが、昼間は慣れない育児で疲れ切っていたので、自然と『できる限り負担を減らそう』と思いました」

 長男をお風呂に入れたり、交代で夜中の授乳をしたり、洗濯や食事の後片付け、風呂掃除などをこなした。妻とは、復帰するタイミングや、フルタイムか時短かなど勤務形態についても話し合った。昼夜を問わない24時間体制の激務だった妻は前職を退職し、フルタイムの派遣社員として出産の約1年後に仕事を再開。子どもを保育園に送っていくのも金原さんの担当に加わった。

 そんな生活が軌道に乗ってきた2010年、金原さんに大阪転勤の辞令が出る。単身赴任するのか、家族で大阪に引っ越すのか、東京に残って3人で暮らすのか。単身赴任だと、妻が一人で仕事をしながら長男の世話をしなければいけない。

 話し合った末、妻は退職し、家族で大阪に向かうことに。そして、この大阪への転勤が、金原さんにとって大きなターニングポイントになるのだった。

<次のページからの内容>

● ある日、妻が部屋で一人静かに泣いていた
● 仕事と家庭の両立の取り組みが評価されイクボスグランプリ受賞
● 二人の子どもの誕生と夫婦の亀裂
● 仕事も家庭も周囲のサポートで乗り越えた
● コミュニケーションはツールを使い分けて
● 家庭がうまくいけば仕事のパフォーマンスも上がる
● 「やってあげている」ではなく、「ありがとう」を大事にする