本特集のラストは、子どもが5歳、1歳のときに大手企業勤務の安定を捨て起業した夫と、夫を応援しながらもフルタイムで勤務し自分の人生も諦めない妻を紹介。創業1年目の夫の働き方は週100時間以上で休日もなし。父親完全不在の子育て期もありながら、夢を可能にするエネルギッシュ夫妻の協力体制に迫ります。

【「夫婦×キャリア」チーム力の新方程式 特集】
(1) 澤穂希 子育ての一瞬に全力で向き合い悔いは残さない
(2) 澤穂希 家族はチーム 愛情も要望もきちんと伝える
(3) 絶望した出産トラブル 家庭も仕事も諦めなかった
(4) 初代イクボス「夫婦の危機を乗り越える」秘訣とは
(5) 夢は海外移住 どこでも仕事可のフレキシブル夫婦
(6) 大企業を辞め起業した夫&応援も自己実現もする妻 ←今回はココ

細井優(ほそい・ゆう)さん(35歳)
「サラド」代表。運営会社であるRed Yellow And Green CEO。1983年生まれ。2008年に新卒で米Appleの日本法人に入社。2010年に結婚。2016年に退社し、6月に起業。サラダのデリバリー&テークアウト店「サラド」を同年9月にオープン。店舗でもある目黒区松見坂のキッチンでサラダを作り、主にBtoB向けのランチとして定期配送するサービスを展開中。おいしく満足感あるサラダを通して、働く人のコンディション改善、パフォーマンスUPに寄与することで企業価値の向上をサポートする。

妻(35歳)
外資系企業に正社員として勤務。1984年生まれ。2007年に新卒入社。2011年に第1子出産。8カ月の産休・育休を経てフルタイムで復職。2015年に第2子出産。8カ月の産休・育休を経てフルタイムで復職。2017年に希望した部署に異動し、現在は2カ月に1回(1~2週間)の海外出張もこなす。長女7歳、長男3歳。

誰もが知る世界的企業を辞めて、畑違いの「サラダ屋」に

 2008年に新卒で米Appleの日本法人に入社し、営業職をしていた細井優さん。誰もが知る世界的企業を辞めて2016年に起業した。IT業界とは畑違いの「サラダ屋」として

 転機は2014年だった。繁忙期は会社に泊まることもいとわずに働く中、当時35歳だった同僚が狭心症で生死をさまよったという

 「胸が苦しいと病院を受診したらその日に入院、翌日に手術でした。タフだと思っていた同僚が30代でそうなったことが衝撃的で。密に働いていた仲でもあり他人事には思えませんでした」(細井さん)。原因は偏った食生活。同僚は医師からの忠告を受けて食事制限を始めた。影響を受けた細井さん自身も、初めて食事に気を使うようになったという。

 ダイエットに詳しい妻に糖質制限のメニューを相談したところ、グリルした肉や魚などをのせてタンパク質も豊富な「おかずサラダ」を作ってくれるようになった。「できる限りサラダを食べる生活をしてみたら驚きました。苦がなく続けられたし、69キロあった体重が2カ月で62キロに落ちたんです。健康になるためには、食生活そのものを変えるほうが継続しやすいと気づきました」(細井さん)

 自らの実体験が起業のアイデアとなった。「自分でビジネスをしてみたい思いはずっと漠然とあって。働く人の健康を改善する、自分のやるべき仕事はこれだと考えるようになったんです」(細井さん)。ちなみに、この頃に妻が料理してくれた「お腹いっぱいになるサラダ」は、サラドが展開するメニューに生かされているそうだ。

 こうして起業に至ったが、調理の知識やノウハウもない、そもそも料理が得意でもない。ビジネスは予想以上にハードだった。提供するサラダメニューやレシピは業務委託契約をするシェフが考案・開発するものの、サラダを作るのは総菜製造業の資格を取得した細井さん自身。朝6時からキッチンで、パートスタッフとともに社長自らサラダを作った

 空いた時間に取引先を開拓すべく営業し、再びキッチンに戻る。22時以降に事務仕事をして深夜帰宅する毎日が1年以上続いた。土日も関係なく働き、週の労働時間は100時間を超えていたそう。「ある起業家が言っていました。『利口な人はリスク管理できるからやらない。バカな人が実際にアクションをする』と。僕はそれに該当すると思います(笑)」(細井さん)。

 独身男性ならば笑い話で済むかもしれない。細井さんは、創業時すでに5歳と1歳の子どもの父親だった。しかも妻はフルタイムの正社員である。夫が早朝に家を出て深夜帰宅し、休日も勤務していたということは、家庭は完全に父親不在である。妻は納得していたのだろうか

<次のページからの内容>

● 夫の起業の意志を聞いた妻は……
● 「そうか、ここまで一人なのか…」と愕然とする妻
● 子育て中の妻が「カンヌ国際映画祭へ行きたい」と言い出したら?
● 「洗濯機は回さない! 外注する!」と言われたら?
● 自分たちにとって「意味のある時間」とは