人生100年時代といわれる現代。人生後半でのキャリアチェンジや、子育てが終わってからの人生も見据えた「夫婦のチーム力」とは? 人生のさまざまな局面で、夫婦間でバランスを取りながら、お互いをサポートし合い、家族も夢(キャリア)も諦めない人たちの生き方とノウハウを紹介します。

今回は、UBS証券で営業部長を務める妻、中尾麗イザベルさんと、みずほ銀行法人推進部国際営業推進室勤務の夫、韓明東(ハン・ミョンドン)さんのストーリーです。国際結婚をした二人の出会いから現在まで、ドラマティックな展開もあった中で築き上げたチーム力の方程式とは?

【「夫婦×キャリア」チーム力の新方程式 特集】
(1) 澤穂希 子育ての一瞬に全力で向き合い悔いは残さない
(2) 澤穂希 家族はチーム 愛情も要望もきちんと伝える
(3) 絶望した出産トラブル 家庭も仕事も諦めなかった ←今回はココ
(4) 初代イクボス「夫婦の危機を乗り越える」秘訣とは
(5) 夢は海外移住 どこでも仕事可のフレキシブル夫婦
(6) 大企業を辞め起業した夫&応援も自己実現もする妻

中尾麗イザベルさん(37歳)
UBS証券債券本部金融法人営業部長。1981年、フランス人の父と日本人の母の間に生まれた。東京都出身。2005年上智大学法学部卒業、2007年大阪大学大学院国際公共政策研究科卒業、同年UBS証券に入社、債券セールスを担当。その後ゴールドマン・サックス証券、BNPパリバ証券を経て、2015年UBS証券に再入社し、現職。2009年結婚、2014年11月に長女を出産。

韓 明東さん(42歳)
みずほ銀行法人推進部国際営業推進室シニアコンサルタント。1977年韓国・大邱出身。2005年国費留学生として来日、2008年大阪大学大学院国際公共政策研究科卒業。同年AIP(現楽天インサイト)に入社、海外リサーチ業務を担当。2012年より現職。

大学院で出会い、結婚のために夢を諦めて就職

 イザベルさんと韓さんはもともと同じ大学院の同期生。ゼミも同じだったが、最初はお互いの存在を認識していなかったとか。そんな二人が急接近したのは、必修科目となっていた学部での講義の前に、イザベルさんが声を掛けたのが始まりだった。

 「まだ新入生が入学したばかりで、立ち見が出るほどいっぱいなのに、最前列で隣の席に荷物を置いて授業を待っていた人がいたので、『空気を読まない人がいるな』と(笑)。それが夫でした。『そこ、いいですか』と声を掛けて座らせてもらって、同じゼミだと分かり、毎回早く来ているというので、『じゃあ、私の席も取っておいてくれない?』とお願いしたんです」(イザベルさん)

 お互いに初めての分野の科目だったことと、来日したばかりだった韓さんがまだ日本語が今ほど話せなかったこともあり、「一緒にごはんでも食べましょうか」となり、知り合って数カ月後には付き合いが始まった。

 そして2007年、イザベルさんは新卒でUBS証券に就職。韓さんはそのまま博士課程に進む予定だったが、このとき二人は既に結婚の意思を固めていた。しかし、イザベルさんの母が「今のままではダメ」と反対したのだ

 「母には、経済力のある人と結婚してほしいという希望がありました。自分の娘が働いて、夫になる人が学生、という状態で結婚するのは違和感があったようです」(イザベルさん)

 母国・韓国に戻って大学教授になるのが夢だった韓さんだったが、その夢を諦め、就職活動を開始。でも、それも順調には進まなかった。

 「韓国では約2年の兵役があり、私は既に兵役を終えていたものの、そのぶん日本の新卒の学生よりも年上でした。しかも外国人なので、日本の就職活動ではとても不利でした。最終面接まで残っても、学部卒の日本人が選ばれるということが続き、この時期は正直、つらかったですね……」(韓さん)

 心が折れそうになりながらも、イザベルさんの励ましを受け、韓さんは2008年に無事就職。2009年、二人は結婚した。

 この頃、既にイザベルさんはバリバリ仕事をこなしていたが、2008年にリーマンショックを経験。「もっと経験を積みたい」と考え、2013年にオファーを受けてゴールドマン・サックス証券に転職。さらに同年中にBNPパリバ証券に転職した。韓さんも、2012年にみずほ銀行に転職し、営業職に。

 「そこでは仕事にまい進し、手応えもあって、ビジネスパーソンとして脂が乗っていた時期だったと思います。でも、周囲にそれを快く思わない人もいて、足の引っ張り合いのようなことが起きました。

 それまでは順調にキャリアアップしてきて、周りの協力を得られていたので、そんなことは初めての経験でした。『こんな思いをしてまで、この仕事を続けていていいんだろうか』という思いが湧き上がってきたんです。それで、『一度仕事は立ち止まって、子どもをつくってもいいかもしれない』という気持ちになりました」(イザベルさん)

 イザベルさんはこのとき32歳。幸いなことにすぐに妊娠し、つわりはひどかったものの、他に大きな問題はなく、妊婦生活は順調だった。産休に入る前には、「産んだらすぐに復帰しますので」と顧客に挨拶するほど、イザベルさんの気持ちは既に出産後に向いていた。そして、2014年11月に出産。

 ところが、ここで予想もしていなかったまさかの事態が起こる

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● 妻が出産時のトラブルで歩けなくなった! どうする?
● 夫が育休取得で育児を全面的に引き受けた
● 妻は自分で治療計画を立て、リハビリに専念
● 「30分時短」で“残業しない宣言”を
● 家事・育児は夫が9割。それでも負担を感じない秘訣
● お互いベストパートナーで、尊敬し合える関係であるために