子ども二人を連れて「家族で海外移住」――。本特集5回目は、そんな壮大な目標に向けて着実に歩みを進める、ベンチャー社長妻とエンジニア夫の夫婦が登場。子育ての大変な時期に「守り」に入らず、あえて「攻める」ことで、楽しいと思える仕事にお互いがぐんと近づくなど、大きな夢に向かう絶妙なチーム力の秘密に迫ります。

人生100年時代といわれる現代。「夫+妻=2」ではなく「夫+妻=無限の可能性」を実践するためのヒントをお伝えします。

【「夫婦×キャリア」チーム力の新方程式 特集】
(1) 澤穂希 子育ての一瞬に全力で向き合い悔いは残さない
(2) 澤穂希 家族はチーム 愛情も要望もきちんと伝える
(3) 絶望した出産トラブル 家庭も仕事も諦めなかった
(4)  初代イクボス「夫婦の危機を乗り越える」秘訣とは
(5) 夢は海外移住 どこでも仕事可のフレキシブル夫婦 ←今回はココ
(6) 大企業を辞め起業した夫&応援も自己実現もする妻

松原佳代(まつばら・かよ)さん(40歳)
カヤックLiving代表取締役、みずたまラボラトリー代表。コンサルティング会社に就職後、編集・ライター職を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。2009年に村瀬さんと結婚。2015年に独立し、スタートアップの広報などを行う、ハモニアを設立。2017年から、カヤックLivingの代表取締役を兼任。2019年3月から村瀬さんの会社MAKE IT REALとハモニアを統合して「みずたまラボラトリー」を設立。

村瀬大輔(むらせ・だいすけ)さん(38歳)
Nature Japan取締役、みずたまラボラトリー代表。大学を中退して面白法人カヤックにエンジニアとして入社。2009年に松原さんと結婚。2013年に退職し、MAKE IT REALを設立して独立。2018年4月からNature Japan取締役に。2019年3月から松原さんの会社ハモニアとMAKE IT REALを統合して「みずたまラボラトリー」を設立。

結婚する際、「夕飯を毎晩一緒に食べよう」と言われたら?

 松原佳代さんと、村瀬大輔さんは2009年に社内結婚。当時、二人は「面白法人カヤック」社員で、松原さんが広報、村瀬さんがエンジニアという立場だった。

 結婚した時は松原さんが30歳、村瀬さんが28歳。伸び盛りのベンチャー企業で「二人とも今考えると信じられないぐらい働いていた」(松原さん)。そんな状況ではあったものの、結婚した際、夫婦はこんなルールを決めた。「仕事が忙しくても夕飯は一緒に食べよう」と。後述するが、この家庭内カルチャーが、その後、大きな意味を持つことになる

 ルールを決めた理由について、松原さんはこう説明する。「私から言い出しました。私の実家は家族みんなで夕飯を食べていましたし、忙しくてもお互いコミュニケーションをきちんと取る時間をつくりたかったんです。それが可能なように、会社から徒歩5分のところに住むことにしました」。二人は夕飯のためにいったん仕事を中断して20時~21時ごろ帰宅。必要があれば、松原さんは夕食後に会社に戻り、村瀬さんは自宅で仕事をすることが多かったという。

 お互いのキャリア観について、話し合うことはあったのだろうか。「具体的に話したことはなかったかもしれないけど、私が社内でキャリアアップを目指していたのは知っていたよね」と松原さんが問うと、「あんまり覚えてないけど、『好きなことをやってくれればいいな』と。僕も『自分の好きなことするのが楽しい』というタイプですから」と村瀬さんは振り返る。

 当面は「仕事と二人の生活を楽しむ」が最優先で、子どもを持つことはまだ先と考えていた。「30代って常にキャリアを伸ばしたい時期ですよね。もっと仕事したい気持ちがあって『もうちょっと、もうちょっと』と私が先延ばししていた感じです。でも時間は迫ってくるから、35歳が見え始めた32歳ごろから真剣に考え始めました」

子どもが生まれるとなると、普通は安定を選びがちだが……

 夫妻には、これまでに大きな転機が二つあった。どちらも、子どもの誕生前後の出来事だ。

<次のページからの内容>

●長男誕生を目前にして、夫がした「攻め」の決断
●大切なのは育児家事のゴールデンタイム
●妻が、第二子出産直後に「社長になる」と言い出したら?
●「育児と家事をおろそかにしないでね」と夫が言わない理由
●「海外に移住したい」と言う妻、どうする?
●どこでも仕事ができるキャリアが育む大きな夢