「物足りないと思ったことはないです」と澤さん。「現役生活を振り返ると満足したとは言えませんが、納得したサッカー人生でしたし、好きなサッカーをやり切ったという気持ちがあるので、今は子育ても楽しめているのかもしれません」

 出産には夫も立ち会った。「『出産は命懸けのもの、妻に何かあったら大変だから』と、仕事を調整して来てくれました。初めての妊娠・出産で私も不安がありましたが、そばにいてくれたので心強かったですね」と澤さんは振り返る。出産という家族の大事業に二人で向き合っていこうという、澤さん夫婦のチーム力が垣間見えるエピソードだ。

 妊娠中にも、こんなことがあった。「妊娠中の女性はイライラすることがありますよね。普段なら怒らないような場面で私が怒っているのを見て、夫は『女性ホルモンが関係しているのでは』と自分から調べて、理解しようとしてくれました。おなかに実際に赤ちゃんがいる母親と、そうでない父親とではどうしても温度差があると思いますが、そこを踏まえてちゃんと調べてサポートしてくれたのはうれしかったです

地面がビショビショの日にあえて外遊び

 産後の生活はどうだったのだろう。「産後1カ月くらいは、娘がなかなか上手におっぱいを飲めない、などの苦労はありました。よく寝てくれるいい子でとても助かりましたが、静かに寝ていたら寝ていたで『息しているかな、大丈夫かな』と不安になって頻繁に確認をしていました」

 だが、大きな産後クライシスなどはなかった。その理由は、後編で紹介する澤さん夫婦の「チーム力」が関係していそうだ。

 「大変なこともありますが、やはり子どもはかわいいし、子育ては楽しいです。もともと夫が飼っていた犬も2匹いて、育児と家事をしていると一日があっという間ですね」

 子どもはすくすくと成長し、最近は公園などで遊ぶ時間も長くなってきた。「娘は家にいると飽きてしまい、外で遊ぶのが大好きなんです。雨の次の日なんかは地面がビショビショですよね。でも私は着替えを持って長靴を履かせて出掛けます。そして案の定、転んで水たまりに顔面ダイブ(笑)。でも、私自身も子どもの頃、外で遊ぶことが好きで活発なタイプだったので、いいかなと思っています。夕方になって『帰るよー』と呼んでもなかなか帰らないこともありますが、たくさん遊び夜はぐっすり寝てくれます」

 現在は2歳になり、イヤイヤ期に突入しているという。「仕事の時間で出なくてはならないのに、靴下を『自分で履く―』と主張することもあります。なかなか履けないとこちらはイライラしますが、そういうとき、急がせたいのは親である自分の都合だと俯瞰して考えてみるんです。そうすると、気持ちは落ち着きます」

娘にはちゃんと自己主張できる子になってほしい

 20歳で単身渡米して、米国女子プロサッカーリーグで長年プレーした経験もある澤さん。当時、女子サッカー世界ランキング1位の米国で切磋琢磨(せっさたくま)して培われた経験は、今の子育てにも生かされているようだ。