「運」はコントロールできない

 人生には自分でコントロールできない「運」の要素があります。運によって苦境に陥ってしまう人はたくさんいます。


 ねえ、私がもし「好き」と思って結婚した人がDV、モラハラ男性だったら? そんなの見抜けないほうが悪い?

 いやいや、ほとんどの人が見抜けませんよ。最初は優しいんですもの。頑張って離婚しても、それでもシングルマザーの約半数は貧困というデータがあるようにお金を稼ぐのはとても難しい。

 ねえ、私がもし虐待家庭に生まれていたら? そして適切なケアもされていなかったら? 18歳以下なのに「生きるためにはセックスワークしかない」と思って暮らしていたら?

 誰かの支援なしに自己肯定感を持つことは難しく、就職することも大変でしょう。

 ねえ、もし私が最初に働いた職場が超ブラックだったら? 心も体も病み、転職活動もうまくいかなかったら?

 今は一見、少子化による売り手市場のように思ってしまうけれど、人気の仕事は相変わらず買い手市場です。売り手市場に多いのはブラックだったり体力的に厳しかったりする仕事。就職にも格差が反映されているのが現実です。

 ねえ、私が働こうとしても仕事がなかったら? 頑張って就いた先の仕事は低賃金で、子どもや家族と暮らしていくのにカッツカツだったら? そしてまた、新型コロナのようなことが起こったら?

 ねえ、突然私か夫、もしくは二人とも病気や事故に遭ったら?


 ……。こんな人たちにも、自分の責任だと言えるでしょうか?

 そんなわけで、貧困が自己責任かどうか、それを知るために自ら貧困を経験した当事者の本を紹介して、この原稿をしめようと思います。

 先日読んだ『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』(ステファニー・ランド著/双葉社)は28歳でシングルマザーになった著者が、自らの貧困体験を基にした回想録です。シングルマザーがいったんホームレスとなると、例え聡明(そうめい)で、努力を重ねてもなかなか貧困から抜け出せないことが分かります。その現実を知れば、誰も「貧困は自己責任」だなんて言えないのではないでしょうか

イメージ写真/PIXTA

犬山紙子(いぬやま かみこ)
イラストエッセイスト
犬山紙子 1981年生まれ。物事の本質を捉えた歯切れの良い発言が共感を呼び、TVや雑誌、Webなどで活躍中。2014年8月にミュージシャンの劔樹人さんと結婚し、2017年1月に女児を出産。現在は劔さんが家事・育児をメインで担当する共働き生活を送っている。志を同じくするタレントたちと児童虐待の根絶に向けた活動「♯こどものいのちはこどものもの」、社会的養護を必要とする子どもたちに支援を届けるプログラム「こどもギフト」にも取り組んでいる。著書に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)など。