このような状況でも弱者を守る体制を整えることが必要

帆足 先ほどお話ししたオンライン保育は虐待予防にも役立つと考えています。平常時でも、保育園に来て第三者が関わることで虐待が防げている家庭は多いため、保育士さんたちは、巣ごもり生活中に虐待が増えることを懸念しています。親子をケアするには、訪問保育で実際に会うのが一番なのですが、今はそれは難しいかもしれません。長期的なことを考えると、再びこんなことが起きたときにも各家庭に介入できるように、オンライン保育や訪問保育の仕組みをしっかり整えておくべきです。

犬山 自分も追い詰められていることを知ること、SOSを出せるようになることの重要性を感じます。子どもが通う保育園ではオンライン保育や訪問保育をしていない、けれどもつらくて誰かに話を聞いてほしいというときはどうしたらいいでしょうか?

帆足 まずは通っている保育園の先生に電話などでもいいので相談をしてみるといいですね。他にも子育て支援の機関はたくさんあります。心理士を置いている小児科に相談してみてもよいでしょう。必ず具体的なアドバイスをもらってください。虐待が起こってから、信頼できる人を見つけるのは大変なので、今後は日ごろから相談できる人を見つけておくといいと思います。

犬山 保育園の担任の先生だと既に信頼関係ができていて、子どもの個性を知ってもらっているので、相談もしやすそうですね。

 日本ではまだカウンセリングを受けるというのは敷居が高いですが、子育てやパートナーとの関係に悩んだときにプロにメンタルケアをしてもらうことも一般的になるといいですね。カウンセリングは保険診療が効かない場合、1時間数千円はかかります。でも経験したことのある私としては、時間的にも金銭的にも有意義な使い方だと思います。

帆足 現状でも小児科に心理士がいる場合は、今年度から保険診療でカウンセリングを受けられますが、まだ一部です。今回の新型コロナウイルスのような状況で、しわ寄せを受けるのは、弱者である子どもと子育て家庭です。オンライン保育や訪問保育などを行ったり、公費でカウンセリングが受けられるようにしたりして、弱者が傷つかなくて済むようにサポートできる体制をつくらなければいけないと考えています。

 日本の社会を支えていく子どもたちがどういう大人になっていくかを考えたときに、たたかれ、怒鳴られて育った子どもが、人に優しい社会をつくれるはずがありません。それは、虐待の研究からも分かっています。反対に、周りに愛され自分は幸せだと思って育った子どもが増えれば、虐待も減っていくでしょう

犬山 私も大人たちが子どもたちに甘えて、つらい思いをさせているという現実を、そのままにしておきたくありません。子育て支援や虐待予防にお金を投入することは、社会に大きなプラスとして返ってくるのに、それが進まないことが本当に歯がゆいです。私たちはもっと怒って、意見を届けなければなりませんね。

構成/福本千秋(日経DUAL編集部) イメージ写真/鈴木愛子、PIXTA



帆足暁子(ほあし あきこ)
親と子どもの臨床支援センター代表理事、公認心理師、臨床心理士、保育士、幼稚園教諭免許

帆足暁子 臨床心理士としてほあしこどもクリニック(2020年1月末閉院)において子育て相談や心理相談で、日々子どもや保護者と向き合う一方、幼稚園教諭や保育士の資格を生かし、大学では子どもと保護者を大切にできる保育者の養成に携わる。2020年4月に東京・三鷹市に親と子どもの臨床支援センターを開設。著書に『0、1、2歳児 愛着関係をはぐくむ保育』(学研プラス)、『育てにくさをもつ子どもたちのホームケア』(診断と治療社)など。


犬山紙子(いぬやま かみこ)
イラストエッセイスト
犬山紙子 1981年生まれ。物事の本質を捉えた歯切れのよい発言が共感を呼び、TVや雑誌、Webなどで活躍中。2014年8月にミュージシャンの劔樹人さんと結婚し、2017年1月に女児を出産。現在は劔さんが家事・育児をメインで担当する共働き生活を送っている。志を同じくするタレントたちと児童虐待の根絶に向けた活動「♯こどものいのちはこどものもの」、社会的養護を必要とする子どもたちに支援を届けるプログラム「こどもギフト」にも取り組んでいる。著書に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)など。