多様な生き方を描くことが消費者の支持にもつながる

 実はこの「ステレオタイプ」こそ、髙田さんが対談時に丁寧に説明してくださったことでした。髙田さんによると、女性向けの消費財CMの一つには、「仕事に疲れたOL」を描くものがあるそうです。そして、疲れたOLさんは、会社の屋上などに行って、はーっと一息ついて、何かを食べたり飲んだりする…。「同じパターンが多いことに気づきました」

 「女性は仕事で疲れている」。これ自体は、否定しようがない事実ではありますが、果たしてそれだけでしょうか? 仕事って、大変で疲れるだけではなく、「やりがいや生きがいを感じるもの」ではないでしょうか。そして、大変さを感じつつもやりがいを持って働いているのは、女性も男性も同じではないでしょうか。

 サーモスのCMを見て、息子が「ステレオタイプが、ないね」とつぶやいたのは、そういったことを感じたためだろう、と思います。念のため、いくつか他の働く女性を描いた消費財のCMをYouTubeで探して見てみました。すると“女性らしく”着飾り、お化粧をして、困ったように振る舞うものが多くありました。「確かにいつも女の人が困ってるよね」と息子は感想を述べます。

 「『こういうふうにすると女の人は仕事で疲れるだけじゃない!』って女の人が怒って買ってくれないかもしれないじゃん。僕だったらこういうCMは作らないで、男も女も仕事で少し疲れても『頑張るか』と、言って家に帰ったら(そのCMで)アピールする食べ物を食べたり飲み物を飲んでリラックスするという感じのCMを作る」

 子ども心にも違和感を覚える“働く女性のステレオタイプ”を払拭しつつ、働く男女の新しい、“実はリアルな姿”を描いて見せたところに、サーモスの新しさがあるのか、と感心しました。ちなみに私の仕事は主に屋内で行いますが、夏はアイスコーヒー、冬はホットコーヒーや温かいお茶を入れたサーモスの魔法びんを持ち歩いています。

 髙田さんからは、他にも男性用化粧品の海外CMで「男らしさ」を多様な形で表現したもの、ボルボ社のCMで様々なカップルを描く中に同性愛カップルが自然に映っているものをご紹介いただきました。多様な生き方を描くことで、ブランドの価値観が明快になり、消費者の支持にもつながるそうです。

 私からは「最近、いいなと思ったCM」としてオロナイン「沐浴オノマトペ」をご紹介しました。生まれて間もない赤ちゃんを沐浴させる「お父さんの手」を描いたCMです。小さな赤ちゃんを「おそるおそる」洗う様子、父親の自然な育児参加を描いた様子がすてきでした。

 髙田さんによれば、こうした製品は通常「家事・育児をする女性の手」を描くことが多く、「家事・育児をする男性の手」を描くのはとても珍しい、ということです。

 DUAL読者にとっては、もはや日常である「働く母親」や「育児する父親」が大手企業のCMで当たり前に描かれるようになってきた。そんな、前向きな気持ちになる対談でした。記事の末尾に動画へのリンクを記しました。読者の皆さんもお子さんや親戚の子どもと一緒にこれらのCMをご覧になってみてください。働く男女、家事・育児をする男女の描き方の特徴などについて話すことで、ジェンダーやダイバーシティーについて楽しみつつ学べると思います。

この記事の関連URL
サーモスのウェブCMが見られるサイト
 https://www.thermos.jp/brand/cm/
大塚製薬「オロナイン:沐浴マトペ篇」が見られるサイト
 https://www.otsuka.co.jp/adv/ohn/tvcm201809_01.html