被害者が求めているものを考える

 映画の試写を見た後、息子に感想を聞くと「うーん。何も言えないよ。大変過ぎて。ひどい話過ぎて……」と言っていました。実は私も同じ感想を持ちました。そこで「私たちは勉強が足りないと思うから」と言って、ナディアさんの自伝本を一緒に読むことにしたのです。

 本を読み終えた息子は「宗教が理由でこんなことが起きるとは知らなかったから驚いた」と言った後、続けてこんなふうにも言っていました。「でもISISは宗教を理由にしているだけで、人を殺したいだけなんだよね

 自伝によれば、ISISに捕われていたナディアさんが、見張りの隙を見て逃げ出した際、かくまってくれたのは、あるイスラム教徒の家族でした。家族の中にナシールさんという若い男性がおり、彼はナディアさんにイスラム教徒の女性の服装をさせ、自分の妻だと偽ってISISの支配地域から脱出させるのです。

 逃げ出したヤジディ教徒の性奴隷を見つけたら、街の人たちは、捕まえてISISに差し出すようにと言われています。かくまったり逃がしたりすれば、その人たちがどんな暴力を受けるか分かりません。

 「ISISにばれたら自分たちが殺されるのに、ナディアさんを助けたナシールさんは本当に偉い。勇気がある」と本を読んだ息子も言っていました。

 中東もISISも、日本に住む私たちからは、遠い存在でしょう。しかし、そこで行われているのは、現代とは思えない人道に対する罪なのです。そうした罪を裁くために、被害者自身が何を求めているのか。平和が当たり前の日常で、親子で考える機会にしてみてはいかがでしょうか。

(c)RYOT Films
(c)RYOT Films

2019年2月1日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
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監督: アレクサンドリア・ボンバッハ
配給:ユナイテッドピープル 原題:On Her Shoulders
95分/ドキュメンタリー/2018年/アメリカ
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