自分たちには「5年」あるのかどうかも分からない

瀬戸川 5年といえば、「(がんの)5年生存率が上がった」ということがニュースになりますが、「あなたの人生、今から5年生きられますよ」と言われて、普通はあまりうれしくはないですよね。

金澤 そう、たった5年なんです。僕らに示されているのは

瀬戸川 残酷な言葉ですよね。データとしての重要性は分かるんですが、私はまだ45歳。普通の女性ならあと40年は生きられるはずなんです。それが「5年ですか?」と。「孫の顔は見られないかな」と思うとすごく残念です。

 私、がんになってからエンディングノートを書いたんです。私が亡くなった後、子どもたちや親、妹が困らないように、と思って。でも、エンディングノートには「今まで楽しかったこと」とか「これからまだやりたいこと」といったことも書く欄があって、それを書いていると、結構前向きになれました。「これからまだやりたいこと」に書いたことで、もう達成したこともあるので、「まだ書けるな」という気持ちにもなれる。最初はネガティブな気持ちで取り組みましたが、結構オススメです。

西口 いいですね! 自分の思いや気持ちをアウトプットすることは、すごく大事なことですよね。

金澤 僕は去年からブログを書き始めました。最初にがんと分かったときや、最初の転移のときにはそこまで深く考えなかったんですが、昨年2度目の転移があって、「いよいよかな。そんなに長くないのかな」と思ったとき、「自分の足跡を残したい」と思うようになりました。今の状況をどう捉えているか、治療をどう受け入れているのか、イヤなことや良かったこと……色々な思いをきちんと残しておきたいと考えるようになったんです。

西口 ブログを書くようになって、何か変化はありましたか?

金澤 今置かれている現状や自分の感情を受け止められるようになったかもしれません。言葉にすることで、「そうか、僕は今つらいんだ。苦しいんだ」とか「周りの人に分かってもらいたいんだ」といった自分の思いが明確になりました。

 自分と向き合って悩みを言語化すると、前向きなことなら「それをやろう」となりますし、後ろ向きのことでもそんな自分をちゃんと認められるようになると思います。

瀬戸川 頭の中が整理されるんでしょうか。

金澤 自分の感情って、すごくもやっとしているけれど、言葉にすることでさっきの話みたいに落としどころが見つかる。そうすると、対処法が見つかったり、次のステップに進めたりする気がします。

西口 実は僕、最近は「なるようにしかならない」と、ある意味達観しているんです。体のこともそうですけど、腫瘍マーカーが上がるとか、CTに影が映るとか、治療がしんどいとか。がんに関するそういったことは、自分ではどうしようもできないことがほとんど。そのことに気付いてからは、あるがままを受け止められるようになったというか。

金澤 気持ちはなんとなく分かります。

西口 僕はがんになる前からぼんやり考えていたことがあるんです。10年後、20年後どうなるのかというようなことは、実はすべて決まっていて、神様だけはそれを知っているけど、僕は知らない。そこで僕が事あるごとに「やった!」と喜んだり、「うわー……」と落ち込んだりしているのを見て、「その後どうせこうなるのに」と笑われている、そんな想像をしているんです。

 そう思えば思うほど、現状に右往左往することがバカらしく思えてきて。実際は色々悩むわけですが、何をしてももう「未来はこうなる」と決まっているのなら、「やりたいことをやればいい」なんて思うんです。

瀬戸川 あらがうのではなく、あえて流されてみる、というようなことでしょうか。

西口 そういうことも大事だと思うんです。あらがうだけじゃなくて、「あ、そうかもな」と受け止めるということも。

金澤 すい臓がんで亡くなったシスターの渡辺和子さんの言葉で「置かれた場所で咲きなさい」という言葉がありますが、がんになってから、その言葉がものすごく心に迫ってくるんです。自分が五体満足であれもこれもできる、どんなことも目指せるという状態ではなくなったわけですが、でもやりたいことも、まだできることもある。自分のできる範囲で、相手に対してベストを尽くそう。そう思いますね。

西口 「今の自分にできるベストは何か」ということは、常に考えますね。以前は結果をすごく気にしていたところがあったのが、がんになってものの見方が変わったということはあると思います。

 今日はお二人の話を聞けて、僕自身とても勉強になりました。ありがとうございました。

金澤瀬戸川 ありがとうございました。

(取材・文/荒木晶子、日経DUAL編集部 撮影/阿部昌也)

西口洋平
1979年大阪府生まれ。妻、娘(9歳)との3人家族。2015年2月胆管がんの告知後に「キャンサーペアレンツ~こどもをもつがん患者でつながろう」を立ち上げ、活動中。現在、週2~3日働きながら治療を続けるとともに、「がんと就労」「がん教育」などのテーマで講演や研修なども行っている。