病気であることで家族に負担や我慢を強いたくない
西口 仕事を辞めることを考えたことはありますか?
瀬戸川 うちの事務所が大きな事務所にM&Aされて、その一員として働くということは考えたことがあります。「がんに侵された私の背骨は、いつまで折れずにいてくれるのだろう」という不安はずっとあるので。
背骨が折れたらデスクワークもできるかどうか分からないですが、書類作成などのスキルはあるので、在宅で仕事をするといったことは考えています。実は収入保障保険に加入しているので、私が死んでも子どもたちの学費を賄えるくらいは毎月保障されるんです。でも本当にそうなったとき、自分が働けなくなってから死ぬまでの間をどうしようかなと考えますね。
西口 ある意味、働けなくなったらスパンと死んだほうが、気がラクみたいな感じですか?
瀬戸川 経済的にも体力的にも、家族の負担になるんだったらいっそ、とは思ってしまいます。思いたくないですけど。
西口 金澤さんは働くことについてはどう考えていますか?
金澤 働きたいかどうかと聞かれれば「イエス」です。一つはやっぱり収入のため、家族の生活を維持するためです。自分が病気だという理由で、家族に色々な我慢をしてほしくない。特に娘たちには。
もう一つは、最初にがんが発覚して入院したときに「ベッドに寝たきりで点滴で生かされているという状態は、生物学的には生きているけど、社会的には死んでいるな」と思ったんです。「他人に認知してもらって、相手に何かを働きかけて、リアクションをもらってという、その繰り返しの中で自分が生きていることを確認するんだな」と思い至ったときに、「あー、仕事したい!」と心から思いました。
その後転移と復職を繰り返すたびに、やっぱり「仕事したい!」「戻ってきて良かった!」ということを感じますね。
西口 ということは、辞めることは考えなかった?
金澤 一切考えませんでした。「早く戻りたい」という、その一心でしたね。
瀬戸川 先日読んだ本の中に、著者が「なぜ障害者が働きたいのか?」と思ったということが書かれていました。施設にいて世話をされているほうがラクだし、それでもいいじゃないかと。でも、あるお坊さんの「人の欲求の中に、人から必要とされて、役に立ちたいというものがある。それが人間の生きがいだ」という話を聞いて考えが変わったとありました。
私たちもがん患者だからといって働けないわけではないので、すごく共感しました。お客さんの役に立って「ありがとう」と言われるときが、「自分は社会の一員だ」と感じる瞬間なんです。それをできる限りは続けていきたいと思います。
金澤 医師も看護師もとても親切にお世話をしてくれるんですけど、「そうやって生かされている自分にどれだけの価値があるんだろう」と考えてしまいます。そして、まだ自分に価値があるのなら、ちゃんと社会に還元したいと思っています。
西口 僕の場合は、がんになる前は家と会社しか居場所がなかったので(笑)、自分にとっての社会の2分の1を消すという選択肢はそもそもなかったですね。
「もし僕に趣味とか課外活動みたいなものがあったら、仕事の優先順位が低かったのかな?」と考えたりもしますが、これはこれでいいかなと思っています。ここにいる3人はみんな仕事にちゃんと取り組んできたので、「やっぱり仕事をしたい」と思うのかもしれないですね。
金澤 僕たちは「意識高い系」かもしれないですね。意識高い系がん患者(笑)。
―― 中編に続きます!
(取材・文/荒木晶子、日経DUAL編集部 撮影/阿部昌也)