キャリアプランが一度リセットされる恐怖

瀬戸川 でも、治療はやっぱりつらいですね。鎖骨に転移して放射線治療を受けたときが一番つらかった。喉の中がやけどして膨れて、一番ひどいときは声も出なくて。食べ物も通らないし、通ったら痛い。それで流動食しか食べられない時期が4カ月続いたんです。そのときはさすがにゲッソリ痩せました。

西口 治療しているときは、どうしてもQOL(生活の質)が下がりますよね。金澤さんが今年抗がん剤の治療をやっていたときは、やっぱり副作用がありましたか?

金澤 3週間に一度、病院に点滴を受けに行って、その後2週間薬を飲んで、1週間休薬してというのを4クールやりました。点滴してから4~5日くらいは吐き気と倦怠感、食欲不振、手足や口の中のしびれなどの症状が一気に出るので、ほぼベッドから起きられない感じでした。

西口 主治医からもその間は「仕事は無理だよ」と言われていたんですか?

金澤 実は手術の前にも4クール治療をしていて、休薬期間には出勤していたんです。だから同じようにしようと思ったんですが、主治医から「副作用が蓄積するタイプの薬だから、これからやる4クールのほうが手術前のときよりしんどくなる」と言われて。

西口 なるほど、抗がん剤にも種類がありますもんね。

金澤 それにちょうど冬で、免疫が下がっていて風邪など感染症の心配もあったので、「できればゆっくりしたほうがいい」と。会社にもそう伝えたら、「休んでください」という話になりました。

西口 やっぱり治療が仕事に与える影響って大きいですよね。瀬戸川さんは、抗がん剤はいかがでしたか?

瀬戸川 3週間抗がん剤治療をした後は1週間ヘロヘロで、家でメールチェックするくらいしかできなくて、もどかしかったですね。私の人生プランに、「がんになる」という予定は組み込まれていなかったので。

西口 普通はそうですよね(苦笑)。

瀬戸川 がんになったとき、今まで積み上げてきたものが生かせなくなるという恐怖心がありました。私はちょうど新しい資格を取って、これからというときに再発したんです。「これだけ頑張ったのに、これを生かせないの!?」と思いました。

 家族からも「朝早く行くのやめなさい」とか「夜は早く帰ってらっしゃい、体に負担かかるから」とか言われながら、朝は逃げ出すように事務所に行って、家族が帰ってくる前に帰ってきて。他の人たちは皆、夜営業に行って人脈を広げているのに、「こんなことで一体何ができるんだ」という恐怖や不安感が強かったです。「勉強会にも出られない、置いていかれるかもしれない」と。

金澤 自分の描いていたキャリアプランが一度バチンと切れますよね。僕も「これからどこをゴールに置けばいいんだろう?」「何をマイルストーンにしていけばいいんだろう?」という戸惑いがありました。

西口 僕も35歳でがんになったとき、新しいプロジェクトに入って「よっしゃ!」と思っていたタイミングで。「これ、もう無理じゃん……」という喪失感がありました。

瀬戸川 「何のために今まで積み上げてきたんだ」という気持ちになりますよね。事務所も、これから新しい人を入れて大きくしたらいいのか、それともこのまま維持でいくのかとすごく考えます。「大きくしたところで手に負えなくなったら迷惑かけるだけだな」とか。

 先のことはあまり考えられないので、とりあえずやれることをやって、人に迷惑をかけずに自分の果たせる使命をやるというだけですね、今は。