がん患者同士のコミュニケーションがプラスの力を生み出す

樋野 「キャンサーペアレンツ」はネット上でのコミュニケーションということでしたが、シンポジウムみたいなことで会員同士が顔を会わせる機会はあるのですか?

西口 はい、あります。やっぱり顔を会わせると、皆さんすごく元気になりますね。最初は僕自身にとって必要だから始めた活動でしたが、みんなも必要としていたことに気付きました。

樋野 人間同士の関係には3つのパターンがあります。プラス×プラス=プラス、プラス×マイナス=マイナス、マイナス×マイナス=プラスです。プラスは元気な人、マイナスは元気をなくしている人です。

 プラスの人は同じプラスの人と接したがります。マイナスの人を避けたがるし、マイナスの人もプラスの人を避けます。でも、マイナスの人が自分よりさらにマイナスの人、つまり困っている人に出会うと、プラスになるのです。ですから、自分よりも困っている人を探しに行くことですね。そういう人は必ず自分の周りにいますから。

西口 それは、すごく感じますね。「キャンサーペアレンツ」に入会してくる人たちの大半は、口に出したりはしませんが、最初は「自分以上に不幸な人はいない」と思って入ってくるんですよ。

 でも、入会して他の会員さんたちとコミュニケーションを取り始めると、自分より大変な人がたくさんいることに気付く。そのとき、自然と「助けになってあげたい」と思うんですね。その時点でその人自身のマインドが変わっている、そういう効果はコミュニティーだからこそだと思います。「がん哲学カフェ」もそうだと思うのですが、様々な人が集う場所だからこそ生まれることですよね。

がん細胞は不良息子。共存して天寿を全うすることを目指す

樋野 僕は文京区のがん教育のスーパーバイザーをやっていて、文京区の小中学校に授業に行くのですが、「キャンサーペアレンツ」でもがん教育をやっていますか?

西口 はい、最近は僕も学校に行って話をすることがあります。「がん教育」をするうえで僕たちが困ったのは、がんというものをいかに子どもに分かりやすく説明するか、そのツールがなかったことです。

樋野 僕はがんについての小冊子の監修をしたんですよ。長野県東御市の教育委員会が作った20ページほどの漫画ですが。

西口 僕たちも今、絵本を作っています。読み聞かせをしながら、ユーモアをもってがんのことを理解できるようなものをと考えていて、こだわっているのはがんを擬人化したりせず、「がん」という言葉で伝えることです。子どもにも大人にも共通言語としてがんが理解されることを目指しています。

樋野 がん細胞というのは、不良息子と同じなんです。正常細胞がいかにがん化するか、それは普通の子どもがいかに不良化するのかということと似ています。

 「がん細胞で起こることは人間社会でも起こる」と言ったのは、僕の師でがん研究所所長を務めた菅野晴夫先生が教えを受けた吉田富三先生ですが、逆もまたしかりなんです。「人間社会で起こることはがん細胞でも起こる」のです。ですから、がん細胞をいかにしておとなしくさせるかは、不良息子をいかにして立ち直らせるかと同じです。

樋野興夫先生
樋野興夫先生