ビジネスの第一線で活躍する人たちは、日々の仕事の生産性を上げるためにどのような工夫をしているのでしょうか。また、その背景にある仕事や人生に対するポリシーとは? 今回お話を聞いたのは、日本におけるナニーサービス(教育ベビーシッター)の草分け、ポピンズの轟麻衣子新社長です。

 今月、創業者である母の中村紀子さんから社長の座を引き継いだばかりの轟さんですが、当初はもう少し早く社長に就任するはずでした。なぜそれが今になったのか。そこには、轟さんが常に大事にしてきた「人生のプライオリティー」に基づく決断がありました。

【仕事時間プライオリティーの法則特集】
第1回 仕事と育児の両立 生産性アップは時代の要請
第2回 ポピンズ社長 一番大切にしてきたのはいつも「家族」 ←今回はココ
第3回 グーグルCMO テクノロジーはこうして味方にする
第4回 時間泥棒「メール」はスキルを磨けば誰でも高速化
第5回 外資系コンサルが伝授!超実用「倍速」仕事術

人生の様々な岐路で、「家族」を軸に道を決めてきた

 「私にとって家族は、人生におけるすべての基盤です。夫と私は国際結婚ですが、食べるものから趣味、生活習慣まで全く違う中、たった一つ似ていたのが家族を何より大切に思うという価値観。それが結婚の決め手になったほどです」

 12歳のときに単身イギリスに渡って以来25年間、海外で生活してきた轟さん。ロンドン大学卒業後はメリルリンチやシャネルなど様々な業界でキャリアを重ねてきましたが、その節目節目において、「人生においてプライオリティーが最も高いのは家族」という信念に基づく選択を行ってきました。

 メリルリンチで3年働いた後、介護が必要になってきた、育ての親でもある祖父と日本で一緒に時間を過ごしたいとシャネルに転職し、パリ本社を経て日本支社への赴任が決まった直後のこと。鎌倉でその祖父を支えていた祖母が急に倒れ、入院することになりました。シャネルに入ってまだ1年半ほどでしたが、経営者でもあった母と共に自分を育ててくれた祖母の介護に専念することを決意。会社を辞め、亡くなるまでの4カ月間、病院に泊まり込んで寄り添い続けました。

 また、その後フランスへのMBA留学を経てイギリスに移住し、宝飾ブランドのグラフダイヤモンドに就職したのも、後に夫となる人と婚約したことが一番の理由でした。「彼はMBAの学校での同級生だったのですが、私は日本に、彼は南米に行きたいと考えていました。でも一番大切だったことは、これから作り上げる『家族』の基盤。二人にとってニュートラルな場所はと考え、イギリスのロンドンを2人の拠点にしようと決めました。このときも、家族を優先したんです」

置かれた環境で、キャリアに対しては積極的に行動

 家族が最優先だからといって、轟さんはキャリアを築くことに対して受け身になっていたわけではありません。

 「私、シャネルもグラフダイヤモンドも、その後に移ったデビアスも全部、募集ポジションがないところに自分で門をたたいて挑戦してきました。こだわったのは、面談の機会をいただいたら絶対にそれを無駄にしないこと。母から『チャンスは貯蓄できない』とよく言われて育ったので、その会社の事業のことを徹底的にリサーチして今必要としていそうなことをつかみ、『私はこういう経歴を持っているから絶対に貢献できます』とアピールしました

 時には送った履歴書を突き返されたこともあったそうですが、一生懸命であれば必ずその熱意が通じること、チャンスが得られることを学んだと振り返る轟さん。また、創業約60年のファミリー企業であるグラフダイヤモンドでファミリービジネスの在り方を勉強できたことは、今ポピンズの経営をするうえでとても役に立っているといいます。

<次のページからの内容>
● 会社を継ぐために帰国すると、予想外の出来事が待っていた
● たとえ1分でも、大切なのは子どもと心が通じ合う瞬間
● 社長になることへの自信喪失を救ってくれた、息子の成長
● ジェットコースターのような5年間が、今につながっている