他のことが目に入らないくらい、何かに夢中になれる人、常識とは違う判断や結論を持ってチャレンジする人を、日経DUALではポジティブな意味で「バカ」と定義し、様々な「バカ」な人を紹介してきた本特集。最終回は、平昌パラリンピックで金メダルと銅メダルを獲得した、アスリートの成田緑夢(ぐりむ)さん(24歳)です。

 成田さんはスノーボード一家に生まれ、兄の童夢(どうむ)さん、姉の夢露(めろ)さん(現在は今井メロさん)もトリノオリンピックにスノーボード競技で出場したオリンピアンです。父の隆史さんは京都大学卒のスノーボードコーチで、成田さんは幼少のころから五輪を目指してスパルタ教育で育てられました。しかし19歳のころ、左足に重傷を負い、膝から下の感覚がなくなる障害を持つに至った成田さん。一時は切断の危機にもあったほどのけがでしたが、そこから奇跡の平昌パラリンピック出場、金メダル獲得という快挙を成し遂げました。

 しかし帰国直後、スノーボード競技からの引退を発表しました。一体どういうことなのでしょうか? 成田緑夢さんの独自理論や「誓約書」の存在など、一部「?」となってしまうような、不思議なインタビューとなりました。

【想像力で現代を生き抜く 子どもの「バカ」の育て方特集】
(1)社会を変えた天才は、みんな「バカ」だった
(2)長谷川眞理子 「バカ」は男が多くて女は少ない理由 
(3)子どもの「バカ」を育てるための5つのポイント
(4)福原志保 「壊れた洗濯機」と言われた少女時代
(5)僕が「そろばんオタク」で終わらなかったワケ
(6)カリスマ先生 「失敗目的」の経験が子どもを伸ばす
(7)成田緑夢 自分との「誓約書」で東京五輪を目指す ←今回はココ

何かを捨てないと、革命を起こすことはできない

日経DUAL編集部(以下、――) 平昌パラリンピックのスノーボード競技での銅メダル、そして金メダルの獲得、おめでとうございます。しかし、成田さんは帰国後、すぐにスノーボード競技からの引退を発表されました。「新たな目標に向かって全力で取り組みたい」とのことでしたが、新たな目標とは東京パラリンピック、そして東京オリンピックへの出場ということでしょうか?

成田緑夢さん
成田緑夢さん

成田緑夢さん(以下、敬称略) そうですね。「目の前の一歩に全力を尽くす」というのが僕のモットーなのですが、今の僕にとっての目の前は「東京パラリンピックとオリンピックへの同時出場」なんです。東京は夏の大会なので、冬の種目であるスノーボードについては一旦“捨てる”ということです。何かを捨てないと、革命を起こすことはできないと思っているので。エントリーする競技についてもまだ検討中です。

―― オリンピックとパラリンピックの両大会に出場というのは、世界でも過去に数人しか達成していない偉業です。日本人で達成した人はいないようですが、本当に実現可能だと思いますか?

成田 僕にできるかどうかは、やってみないと分かりません。でも、もし実現できたら、そのときは見る人に勇気を与えられると思います。僕の究極の目標は、「障害のある人、けがをして引退を迫られている人、一般の人に夢や感動や勇気、希望を与えられるようなすてきなスポーツアスリートになる」ということなので。東京「パラオリ」に出場するというのは、あくまでそのための手段でしかありません。

―― そもそも2013年、19歳のときに負った左足の腓骨神経麻痺のけがは、「歩けるようになるまで20%」「切断の可能性もある」と言われたほどの重傷でした。そこからパラリンピックで金メダルを獲得できたこと自体が既に奇跡だとも思いますが、それが実現できたのは何が大きかったのでしょうか?

成田 「誓約書」ですね。これに尽きます。僕は、自分自身と「誓約書」を交わすんです。期限は1カ月で、○○を達成すると書き記す。守れなかったときのペナルティーは「坊主頭にすること」です。僕は坊主頭が大嫌いなので、毎回必死ですよ(笑)。でも、この誓約書との戦いを通じて、自分自身の能力を最高速度で伸ばせていると考えています。

<次のページからの内容>
● すべてのエネルギーと時間を注ぎ込んで初めてクレイジーな目標を達成できる
● ゴルフ初心者の成田さんが2週間半でスコア95を切った
● 物体の動きやエネルギーがカラーで見える
● 今はアスリートとして「最高のエンジンを積む」ことが大事
● けがによるマイナスは一つもない。プラスは120点くらい
● 目標を達成するためには最短距離を最高速度で