すべてのエネルギーと時間を注ぎ込んで初めてクレイジーな目標を達成できる

―― ちなみに、直近の誓約書の内容は何でしょうか?

成田 ゴルフです。平昌パラリンピックでのスノーボードクロス準決勝で、転倒してしまったことの原因を突き詰めると、集中力の欠如だなと自己分析したんです。そこで、もっと長時間の集中力を求められるゴルフをすることによって、自分のアスリートとしての能力をより高めようと思ったんです。

 ちなみにゴルフは全くの初心者で、やってみたらスコアは130だったんですが、目標スコアは95(ハーフ47)に定めました。ゴルフ経験者なら、初心者がこれを1カ月で達成するというのは普通の目標ではないことが分かってもらえると思います。実は昨日(インタビューは4月19日)達成したばかりで、実際にかかった日数は2週間半といったところでした。

―― 一般的に100を切ることができるゴルファーは全体の2~3割といわれています。全くの初心者が、たった2週間半でそれ以上のスコアをたたき出すなんて、本当に驚きです。誰かに教えてもらったんですか?

実際の誓約書のひな型。あくまで自分との誓約だが、成田さんにとっては何よりも守るべき誓約となっている
実際の誓約書のひな型。あくまで自分との誓約だが、成田さんにとっては何よりも守るべき誓約となっている

成田 いえ、これは他の競技でも同じですが、誰かに教えてもらうということはほとんどなく、本も読みません。動画を見るだけですね。上手な人が打っているところを見て、フォームではなく、どういう回転や特性を持ったボールを打つのか、というところだけをじっと観察します。それで何となく、どんなボールを打てば効率よくピンに向かっていくのかということを理解して、あとは実際に打てるように色々自分で試してみるんです。たくさん打っていくと、「おっ、これかな」というようなショットが打てたりするので、あとは安定して打てるように何度も何度も反復練習をする。そうして自分のスキルにしていくんです。

 ただ、「誓約書」のプレッシャーは本当に半端じゃなくて、期限の半分を過ぎたくらいのころから、焦る気持ちからか毎晩うなされて、殺されそうな夢や鉄球に追いかけられる夢を見たりしました。この期間は本当にゴルフのことしか考えないし、やらないので、生活もとにかくゴルフが中心。朝起きたらすぐパターの練習をして、打ちっぱなしの練習場に行って、ホールを回って、アプローチの練習をして、ナイターをして、またパターをしてから寝る、という毎日。自分の時間とエネルギーを短期間にすべて注ぎ込むことによって、普通じゃ不可能だと思われるクレイジーな目標をなんとか達成できる、という感じですね。

―― それはまた、かなり変わった練習法というか、追い込み方というか…。誓約を達成できなかったことはないんですか?

成田 ありません。もう3年くらい続けているので、これまで相当な数の誓約をこなしてきて、そのどれもが「ゴルフ初心者が1カ月でスコア95を切る」レベルの難易度のものですが、すべて達成してきました。だからこそ、ここまできて失敗はできないというか、負けられないプレッシャーは回を重ねるごとに増してきています。