「エジソンだってスティーブ・ジョブズだって、最初はバカなやつだと笑われたはず」(東京大学の生田幸士教授)。世界を変えてきたのは、そんな「バカ」たち、いや「天才」たちだった――。

 他のことが目に入らないくらい、何かに夢中になれる人、常識とは違う判断や結論を持ってチャレンジする人を、日経DUALではポジティブな意味で「バカ」と定義しました。没頭する力や独創性、想像力、常識を覆す行動力こそが、未来を生きる子どもに必要な「力」ではないのか。子どもの「バカ」を育てるために、今親ができることはあるのか。様々な角度から探っていきます。

 第1回は、冒頭で紹介した東京大学の生田教授に、「バカとは何か」「なぜ日本の最高学府である東大で“バカゼミ”なのか」を聞きました。

【想像力で現代を生き抜く 子どもの「バカ」の育て方特集】
(1)社会を変えた天才は、みんな「バカ」だった ←今回はココ
(2)長谷川眞理子 「バカ」は男が多くて女は少ない理由
(3)子どもの「バカ」を育てるための5つのポイント
(4)福原志保 「壊れた洗濯機」と言われた少女時代
(5)僕が「そろばんオタク」で終わらなかったワケ
(6)カリスマ先生 「失敗目的」の経験が子どもを伸ばす
(7)成田緑夢 自分との「誓約書」で東京五輪を目指す

日本で圧倒的に不足している「バカ」

 バカを試みる者だけが、不可能を可能にできる――

 相対性理論を提唱したことで知られ、20世紀最大の物理学者と評されるアルベルト・アインシュタインの残した言葉です。

 日本では、受験や学歴、安定した大企業への就職など、とかく“決められたレール”の上を走りたがる傾向があります。それも、わが子には幸せになってほしい、危ない道を渡ってほしくないという親心ゆえ、ではあるのですが、「結果として現代日本から『バカ』が減ってしまっている」と東京大学大学院教授の生田幸士さんは話します。

 「私はアメリカの大学で勤務していた経験があるのですが、世界に出てつくづく実感するのは『日本人は真面目だな』ということ。これは日本人の長所であり、日本を世界に冠たる経済大国に押し上げた最大の原動力であることは間違いありません。その一方で、圧倒的に不足しているのが『バカ』の人材。ここで言う『バカ』とは、学力の話ではなく、どれだけバカバカしいことを考え、それを実行に移すことができるか。つまり、周囲の批判や嘲笑、評価を気にすることなく、全く新しい発想を提言することができるかということです。そうした人のことを、私は最大限の敬意を込めて『バカ』と呼びたいと思います」

 世界の常識に背を向け、新しいことをやろうとする人のことを、「世間は決まってあいつはバカだ」と笑う、と生田さんは続けます。

 「エジソンだってライト兄弟だって、スティーブ・ジョブズだって、みんな最初はバカなやつだと笑われたはずです。バカを貫くことは、世間の常識を疑い、常識と戦うことだからです。しかし、世間の常識を徹底的に疑い、そこから『新しい常識の在り方』まで創り上げる人のことを、人は『天才』と呼ぶのです

 つまり、天才はその始まりにおいては必ず『バカ』だということです。既存の枠組みの中で優秀な結果を残していく『秀才』では決して天才になることはないのです」

 スティーブ・ジョブズも『ハングリーであれ、愚か者であれ(Stay hungry, stay foolish.)』という有名な言葉を残しています。天才は、みんな昔「バカ」だった、のではないでしょうか。

 「実はジョブズのこの言葉は、仏教で説かれる『三昧(ざんまい)』の思想と同じなんです。三昧とは、集中して、没頭して、無我の境地に達した心境のことを言います。つまり、常識とか、周囲の目とか、他者からの評価とか、そういったことを全く何も考えず、ただ目の前のことに無心になって、すべてを忘れて熱中して取り組む。そうした状態に陥っている人のことを『バカ』だと考えています」(生田さん)

細胞サイズの世界最小マイクロロボットを操縦する生田幸士教授
細胞サイズの世界最小マイクロロボットを操縦する生田幸士教授
<次のページからの内容>
●「人と違うことに価値がある」
●イグノーベル賞より早かった「バカゼミ」
●おならの臭いを分解するフィルターを開発?
●東大生よりよく遊ぶ子どものほうがはるかに優秀
●働きながら子育てをする人へのサポート、環境整備が最大の課題