働きながら子育てをする人へのサポート、環境整備だけが日本再生の道

 ここで、生田さんの冒頭の言葉に戻ります。生田さんは「今の日本にはバカが減ってしまった」と嘆いていましたが、なぜそんなことになってしまったのでしょうか。

 「組織における意思決定の遅さ、教育・研究への投資の低さ、少子化による親の子どもへの過干渉と過剰投資、進学塾での受験テクニックの習得による挫折知らず、悩み知らずの人材育成。その結果、自分の頭でものを考え、発言し、行動する人が減っていること。要因は様々あると思います。しかし、一番の問題は、働きながら子育てをする一般の人たちをサポートする制度、体制が全く整っていないことです。

 私の教え子でも、見どころのある学生は海外留学に行きますが、そうするとそちらで就職して、家庭も持って、もう日本には帰ってこない。なぜか。そうした子たちは口をそろえて『日本に帰っても、私がこちらでやっているような仕事をできる環境がない』と言います。革新的な研究や開発を進めている優秀な人材に対する手厚い支援、サポート、そして子育てしながらでも安心して働ける環境。日本は一刻も早くこうした体制を整えないと、優秀な人間であればあるほど日本にはとどまらなくなってしまいます

 また国内でも、バカをしたり回り道をしたりすることを支援しないといけません。私の学生時代、国立大学の学費は月3000円でした。道路やインフラ整備に世界でも突出した予算を振り向けるのではなく、母子家庭、父子家庭への支援も重要です。もう猶予はないのです」

 子どものバカを伸ばし、そして大人になったときに「日本発のイノベーションを起こしたい」と思ってもらえる環境を整えることは、今の大人の責務ではないでしょうか。

 第2回以降は、人間行動生態学から見た「バカ」、また「バカ」を伸ばす具体的なノウハウなどについてご紹介していきます。

遊びやものづくりこそが「バカ」そして「天才」の源だった
遊びやものづくりこそが「バカ」そして「天才」の源だった

(取材・文/日経DUAL編集部 田中裕康 イメージカット/iStock)

生田幸士(いくた・こうじ)
東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻教授
1953年生まれ。大阪大学にて金属材料工学科と生物工学科を卒業後、修士課程を経て、東京工業大学大学院制御工学専攻博士課程修了。カリフォルニア大学研究員、東京大学専任講師、九州工業大学助教授、名古屋大学教授を経て2010年4月より東京大学教授。医用マイクロマシン、医用ロボットの世界的先駆者。2010年紫綬褒章受章。助教授時代より「バカゼミ」「卵落とし大会」など様々なイベントを開催。著書に『世界初をつくり続ける東大教授の 「自分の壁」を越える授業』 (ダイヤモンド社)。