「エジソンだってスティーブ・ジョブズだって、最初はバカなやつだと笑われたはず」(東京大学の生田幸士教授)。世界を変えてきたのは、そんな「バカ」たち、いや「天才」たちだった――。

 他のことが目に入らないくらい、何かに夢中になれる人、常識とは違う判断や結論を持ってチャレンジする人を、日経DUALではポジティブな意味で「バカ」と定義しました。没頭する力や独創性、想像力、常識を覆す行動力こそが、未来を生きる子どもに必要な「力」ではないのか。子どもの「バカ」を育てるために、今親ができることはあるのか。様々な角度から探っていきます。

 「そろばんに出合えたこと。お金の取り扱いについて生々しい経験をしたこと。この2点が本当によかったと思います」。現在27歳の長谷川祐太さん(Evrika代表取締役社長)は、東大在学中にそろばん事業の会社を起業。現在は「そろばん×学童」の教育事業に取り組んでいます。「好き」に没頭した結果、同世代の多くの人がまだ手にしていない経験や富を得た長谷川さん。その背景には親の教育方針が大きく影響したといいます。どんな教育方針だったのでしょうか。

【想像力で現代を生き抜く 子どもの「バカ」の育て方特集】
(1)社会を変えた天才は、みんな「バカ」だった
(2)長谷川眞理子 「バカ」は男が多くて女は少ない理由 
(3)子どもの「バカ」を育てるための5つのポイント
(4)福原志保 「壊れた洗濯機」と言われた少女時代
(5)僕が「そろばんオタク」で終わらなかったワケ ←今回はココ
(6)カリスマ先生 「失敗目的」の経験が子どもを伸ばす
(7)成田緑夢 自分との「誓約書」で東京五輪を目指す

家族旅行の航空券代を自分で稼いだ中学時代

Evrikaなど数社で代表取締役社長を務める長谷川祐太さん
Evrikaなど数社で代表取締役社長を務める長谷川祐太さん

 「中学に入ると、夏の家族旅行のハワイ行き航空券代を『自分で出しなさい』と親に言われました」。そろばん事業のAbacus Creationや教育事業を行うEvrikaなど数社で代表取締役社長を務める長谷川祐太さんは、振り返ります。

 「『お金について考えてほしい』という親心からだったようです。そういう教育をしてくれた親に今はとても感謝しています。ただ、中学生にはかなり高いので、1年生のときは結局、親に利子付きで借金しました。そこから『さあ、来年ハワイへ行くためには、今からどうしたらいい?』と自分で考え始めました」

 そもそも、長谷川家では、小学生のときからお小遣いは0円。お金が欲しい場合は、習い事などで自分で目標を設定し「達成できたらいくら欲しい」と親と交渉するシステムになっていました。

「最初は『お手伝いしたらいくらもらえる』だったのですが、自分で親に提案しました。次はそろばん何級が目標で、難易度はこれぐらい上がるから、それを踏まえて達成したらこれぐらいのお金を欲しい、みたいに、いつも両親とネゴシエーションしていました。僕が論理的に説明できて、親が納得したらOK。その目標達成に向けて頑張る、という仕組みでした」

 中学生になると、学校の定期テストの結果でも「学年で最高点を取ったらいくら」と“報酬”を設定。「お金を増やす手段を自分で調べたところ『株』という選択肢に行き着きました。それを親に伝えると、稼ぐための方法を自分で考えたので一定の評価をしてもらえて、僕が株取引するための口座を親が開いてくれました。そろばんと学校のテストの結果で稼いだお金を元手に、僕が指定した銘柄を買ってもらったものの、何も考えてなかったので、最初は大失敗しました」。

 失敗に対して、両親は「株で失敗なんてよくあることだよ」とおおらかに構え、特にアドバイスをしてくれなかったといいます。失敗にショックを受けた長谷川さんは、手掛かりを求めて、家に積まれていた3カ月分の古新聞の山を引っ張り出しました。

<次のページからの内容>
・大学に行く必要はないと判断し、1年間フランスへ
・小2の国語のテストで30点、親が「そろばんやってみる?」
・大学4年で起業、全国のそろばん教室を飛び回る
・中3で自分で稼いで生きていける人間を育てられるか
・競馬、バラエティー番組、韓国ドラマなど「ハマり」遍歴
・「成功体験」と「自信」のサイクル