「エジソンだってスティーブ・ジョブズだって、最初はバカなやつだと笑われたはず」(東京大学の生田幸士教授)。世界を変えてきたのは、そんな「バカ」たち、いや「天才」たちだった――。

 他のことが目に入らないぐらい何かに夢中になれる人、常識とは違う判断や結論を持ってチャレンジする人を、日経DUALではポジティブな意味で「バカ」と定義しました。没頭する力や独創性、想像力、常識を覆す行動力こそが未来を生きる子どもに必要な「力」ではないのか。子どもの「バカ」を育てるために、今親ができることはあるのか、様々な角度から探っていきます。

 3回目は、前回に引き続き、人類学者の長谷川眞理子さんにお話を伺います。最終ページでは、長谷川さんや、東大で「バカゼミ」を主宰する生田幸士さんらのお話を基に、子どもの「バカ」を育てるために親が心がけたいポイントをまとめます。

【想像力で現代を生き抜く 子どもの「バカ」の育て方特集】
(1)社会を変えた天才は、みんな「バカ」だった
(2)長谷川眞理子 「バカ」は男が多くて女は少ない理由 
(3)子どもの「バカ」を育てるための5つのポイント ←今回はココ
(4)福原志保 「壊れた洗濯機」と言われた少女時代
(5)僕が「そろばんオタク」で終わらなかったワケ
(6)カリスマ先生 「失敗目的」の経験が子どもを伸ばす
(7)成田緑夢 自分との「誓約書」で東京五輪を目指す

ゲリラの襲来を恐れてライフル銃を抱えて眠ったアフリカ時代

長谷川眞理子さん(国立大学法人総合研究大学院大学学長)
長谷川眞理子さん(国立大学法人総合研究大学院大学学長)

 野生のチンパンジーを研究するため、大学院生時代、アフリカの奥地に2年半滞在した長谷川眞理子さん。「ゲリラが来る」という噂もたびたび流れたので、夜はライフル銃を抱えて眠り、研究に没頭する日々を過ごしました。「『よく親が許しましたね』と人に驚かれることもありますが、私の両親は、私の好きなことをさせてくれました。『止めてもどうせ聞かないだろう』と思われていたのかもしれません」と長谷川さんは笑う。

 長谷川さんも何かに没頭すると他が見えなくなるタイプと言います。「今でもジグソーパズルをやりだすと、終わるまでご飯も作らないし、食べません。それでは色々支障をきたすので、パズルは遠ざけています」。

 幼稚園のころは、図鑑に夢中になりました。「心配した叔母が、他のこともさせたほうがいいと図鑑を隠したんですが、私は怒って取り返しました。それで、叔母も諦めて、私の好きにさせてくれました。世界にあるすべての生物や植物に名前がついていて、それが分類されている、という点に魅了されました。図鑑に載っている草が、道端に生えているこれと同じだ、と分かるのもとても面白かった。ひとりっ子だったおかげで、誰にも邪魔されずに、図鑑に熱中できる時間を持てたのはよかったと思いますね」。

二酸化マンガンを買ってもらって酸素を作った小学生時代

 キュリー夫人伝に影響されて、長谷川さんは小学校低学年で「科学者になる」と決めました。高学年になると、フラスコやビーカーなどの実験セットを買ってもらい、親と一緒に薬局に行って、二酸化マンガンを購入し、家で酸素を作ったことも。「図鑑から始まり、生物の仕組みを面白いと思ったし、数学や物理もエレガントで美しいと感じました。あとは時代の後押しもあったと思います。『アポロが月に行った』とか『科学で明日の社会をバラ色に』という科学全盛の雰囲気が社会全体にありました」。

 東大で人類学を学び、チンパンジーの研究をしにアフリカへ行った後、他の動物の行動生態学に興味がわき、当時、研究のメッカだったイギリスのケンブリッジ大学へ。ここで、長谷川さんは大きなショックを受けました。

<次のページからの内容>
・「個性を伸ばすよりも枠にはめる」という考え方は根深い
・イノベーションの原点はハチャメチャ
・「バカ」は人間以外の生物にもいる?
・日本の親たちのリスク回避傾向が強まっている理由
・子どものバカを育てる5つのポイント