オランウータンの研究者、久世濃子(くぜ・のうこ)さんは、毎年、東南アジアのボルネオ島(マレーシア)に行き、フィールドワークをしています。乳児を背負って密林の中でオランウータンを追いかけたこともあるそうです。

経験をまとめた著書『オランウータンに会いたい』(あかね書房)は2021年の夏休みの宿題の読書感想文、高学年課題図書に選ばれました。久世さんの大人気連載を再掲載します。今回は、今も根強く残る「女性は家庭に向いている」という考えに対し「男女共働き」が生存戦略として有効である理由を、進化の観点からお伝えします。 (DUAL特選シリーズ/2020年6月29日収録記事)

―― 父親と母親の役割についてお聞きします。今も「母親になったら、家に入って育児と家事をするべきだ」と考える人もいます。

久世濃子さん(以下、久世) 子育てと家事だけをする哺乳類のメスは、実はいません。自分の食べ物は自分で取ってくるので、動物たちは母親になっても「労働」をしています。家(巣)の中に閉じこもって、オスが持ってくる食べ物を待っていることは、ほとんどありません。

―― ヒトの歴史でも「専業主婦」はいなかったのですか?

久世 そうです。狩猟採集の社会では、赤ちゃんを産んですぐでも、母親は食べ物を探しに行きました。「専業主婦」が成立する時期は、現代になってからです。

 「赤ちゃんがわんわん泣くのには理由があった」でもお話ししましたが、「母親が、誰の助けもなく子どもと二人きりでずっと過ごす」ことは、ヒトの場合、強いストレスになります。不自然というか、かなり無理をしています。

東南アジアのボルネオ島で、オランウータンの行動や生態の研究を続けてきた久世濃子さん
東南アジアのボルネオ島で、オランウータンの行動や生態の研究を続けてきた久世濃子さん