赤ちゃんは「泣く」というムチと「ほほ笑み」というアメを使いこなす

——とってもいい子ですね!

久世子育て中に、「オランウータンの赤ちゃんと取り替えたい!」と思ったことは数知れません(笑)。

 その半面、オランウータンやチンパンジーの赤ちゃんを、 ベッドの上であおむけに寝かせると、ジタバタしてちっとも落ち着きません。個体差はありますが、ぬいぐるみや毛布など「抱きつけるもの」を与えると、ようやくおとなしくなります。常にお母さんに抱きついていますから、「いつもの安心できる状態」に戻ろうとジタバタするわけです。

 ヒトの赤ちゃんはベッドであおむけに寝かされても、周囲の大人にほほ笑みかけたり、機嫌よく遊んだりできますよね。これは、お母さんに常に抱きついている生活をしなくなった証拠です。

 母親から離れて過ごすようになったヒトの赤ちゃんは、 「泣く」というムチと、「ほほ笑み」というアメを使いこなして、より多くの大人の注意を引きつけ、より長い時間世話してもらえるような環境をつくりあげることができるように進化してきたといえます。

——泣くように進化したなんて、なんでわざわざそんなことを、と思ってしまいます。

久世そう思うのも無理はありません。泣くのは周囲のストレスになり、リスクが高いことなので。でもリスクを冒すメリットがあったんですね。

 ヒトの祖先は、チンパンジーやゴリラたちが住んでいる森から、肉食獣が歩き回っているサバンナに出て行きました。森林が少なくなるなど環境が変動したからと言われています。サバンナで赤ちゃんが泣くと、群れが隠れたり逃げたりするところがなく、とても危険です。大人たちはあわてて赤ちゃんの世話をしたことでしょう。

 つまり、 「泣くことで、お母さん以外の大人の注意を引きつけて、世話をしてもらえた」メリットが、非常に大きかったのです。

——静かにお母さんにくっついていることをやめた、ということですか?

久世この時期の人類は、サバンナに出たため、生存率が著しく下がりました。短い期間でとにかく子どもをたくさん産まないと、群れが維持できなかったのです。でも、小さな子どもを同時に何人も育てるのは、母親一人では不可能です。だから、他の大人に育児を手伝わせるように、赤ちゃんが進化した、というわけですね。

——子育てをお母さんだけの役割にさせないよう、赤ちゃんは進化した!

お母さんに抱かれたオランウータンの赤ちゃん(1歳)Tomoyuki Tajima@Japan Orangutan Research Center
お母さんに抱かれたオランウータンの赤ちゃん(1歳)Tomoyuki Tajima@Japan Orangutan Research Center