上司の「『今しかできないこと』をやってみたら?」の一言

 ただ、休みを取ろうと心に決めたものの、なぜか言い出しにくい不安な気持ちがありました。これまで社内で同僚の男性アナウンサーが出産や育児を理由に休暇を取ったという話を、少なくとも私は聞いたことがありませんでした。たかが3週間、されど3週間……。

 そんな不安を払拭してくれたのは、当時のアナウンスセンターのデスクでした。現在、TBSアナウンスセンターには約60人のアナウンサーが在籍しており、何人かのデスクが手分けをして、アナウンサーのスケジュール管理を行っています。

 デスクに育休の意向を伝えたのは、出産予定日の約3カ月前。「今、少しだけお時間ありますか……」といった感じで、社内の通路に来てもらい、そのまま立ち話で妻の妊娠についての報告、そして育休を検討しているという報告をしました。わざわざ日時を設定したり、会議室のような場所で報告したりするのは、どうも堅苦しくて(苦笑)。

 話を聞いたデスクは「休暇は一人ひとりの職員が持つ権利」と前置きした上で、「後悔しないように、『今しかできないこと』をやってみたら?」という言葉で、私の背中を押してくれました。

 とはいえ、管理職であるデスクの立場からすれば、悩ましいことも多かったはず。こんな私でも、テレビとラジオの生放送業務は週に5日、さらにナレーション業務も週に4日担当しています。3週間休むことになれば、それらの業務に代わりのアナウンサーを配置しなければなりません。

 それに、今年の4月には新元号の発表、その他様々なニュースを控えていたこと、新年度に向けた番組リニューアルや出演アナウンサーの配置転換などの情報が錯綜(さくそう)するタイミングでもありますから、代役の調整は相当大変だったはずです。少しでも時間的に余裕をもって調整を進めてもらおうと早めに育休取得の意向を伝えていましたが、最終的に調整がついたのは3月に入ってからでした。

 休みの間は先輩や後輩、合わせて9人のアナウンサーに引き受けてもらうことになりました。育休に入る数日前、同僚にメールで感謝の気持ちを伝えたところ、「家族と有意義な時間を過ごしてきてね」という励ましのメッセージが返ってきました。「いってらっしゃい!」と背中を押してもらったような気がしました。仕事をカバーしてくれる同僚がいるからこその、私の育休。本当に感謝しています。