今から行動すれば、未来は十分変えられる

前野 そして最後のとりで、S子さんですね。55歳でライター業からはリタイアするとおっしゃっていましたが、手取り年収200万円くらいのイメージで、65歳までお仕事を続けてみませんか? そうすると、S子さんが90歳まで赤字を免れることになります。

S子 人生100年時代、少しでも長く働くって大事なんですね……。

前野 今のお給料を少しでも上げるのも同じ効果がありますが、年収アップは見込めそうですか?

S子 そうなると転職するしかないですね。フリーランスで年収を増やすのはなかなか大変ですから。正社員で入れる会社を探したほうがいいのかもしれないけど、自分自身の「やりがい」と一致しないんですよね。年収が100万円低くても、今みたいに自分で自由に仕事できるほうがいい。

前野 働き方は個人の生き方そのものなので、「やりがいが大事」というお気持ちはフリーランスには欠かせませんよね。それならば余計に、ご家族のライフプランにおいて教育、働き方、家、毎日の生活などで何を重視するのか、ご夫婦で話し合ってみてください。見直しが遅過ぎるということはないですから。

S子 最初にシミュレーションを見せてもらったときに、夫が退職する時点で貯蓄が5000万円あるのを見て、てっきり大丈夫かと思ってしまいました。

前野 でもS子さんが仕事を辞めるとそこから毎年400万円ずつ、生活費だけで取り崩していくことになりますし、ちょうど子どもの大学の時期とも重なるわけです。そうすると、あっという間に10年でマイナスになってしまう。

S子 「医学部を目指したい」って言われてもかなえてあげられないなー。

前野 子どもに進学や将来の可能性を残してあげるのは大事です。でも教育費にお金をつぎ込み過ぎた結果、「大学も行かせてあげて、留学もさせてあげたでしょ。だから就職したらお母さんたちに月3万円仕送りしてね」というパターンになってしまうこともありますよ。

S子 リタイアした親世代を見ていると、旅行に行ったりして悠々自適の暮らしなのに。

前野 DUAL世代は親世代とは環境が違うので、お手本にはなりません。先ほど「月1万円節約するだけで意外と未来が変わった!」と驚いていらしたけど、「日々の積み重ね」が老後に響きます。カードの年会費、毎年の旅行代、携帯電話代などの地道な見直しも大事です。一方でお仕事の面でも、S子さんがリタイアをイメージしていた55歳まであと15年以上あるので、長く働けるような環境やネットワーク作り、スキルアップも目標にすればいいのではないでしょうか。

S子 本当に相談してよかったです。世帯年収が1500万円ほどあるので「何とかなるだろう」と思っている部分がありましたけど、現実は厳しかった! まずは使途不明金をなくして繰り上げ返済に充てること、それから月1万円でも出費を減らしてみること、目的を持った貯蓄をすることから始めます。(おなかの赤ちゃんに向かって)かあちゃん、頑張るよ!

前野 S子さんご夫妻の場合、子どもの教育費への出費と老後が重なる「オトナ夫婦」ということと、使途不明金が多いという弱点がありましたね。でもその分、見直す余地があるということですから。毎年繰り上げ返済を160万円できる「家計力」はあります。ぜひパパとママで話し合いをしながら、頑張ってみてください。

S子さんの後日談

帰ってから早速、夫にシミュレーションの結果を伝えました。海外の大学は無謀なことや老後破産の可能性、投資より住宅ローンの繰り上げ返済のほうが得なことを具体的に示したら、楽観的な考えをだいぶ改めた様子。「もっと仕事を頑張る」「ローンは繰り上げ返済しよう」と前向きになってくれました!

(取材・文/澤田聡子 イメージ写真/鈴木愛子)

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