繰り上げ返済と投資、本当に得なのはどっち?

前野 家計全体の見直しというのは、固定費から見ていきます。S子さんご夫妻の場合、固定費の中で一番大きいのは住宅ローンです。5000万円を20年固定で0.95%という低金利で借りられているので、S子さんの予定通りに毎年160万円をどんどん繰り上げ返済したほうがいいのかどうかを考えましょうか。繰り上げ返済をして、利息負担がどの程度カットできるか試算したことはありますか。

S子 うーん、ないですね。

前野 10年間で合計約1600万円の繰り上げ返済をすると、トータルで387万円利息がカットできます。ローン期間は11年10カ月、短くできますね。

S子 おお! 夫が「ローン残高が2000万円を切ったら、もう繰り上げ返済しないほうがいい」とか言うんですよ。金利が安いから、余分な資金があればその分投資に回したほうがいいって。私はあまりピンときていなくて、いつもこれでケンカになるんです。

前野 ご主人が気にされているのは、住宅ローン控除のことではないでしょうか。現在借りている金利は0.95%で、住宅ローン控除で還付される税金は1%あるから、一般的には今は借りておいたほうがトクです。ただしS子さんの場合は、住宅ローン控除の上限を超えている借入分には全額利息を払っている状態なので、早めに返済するほうが家計の利息負担を減らせるのです。

S子 なるほど! 運用についてはどうですか?

前野 投資に回すお金が100万円だとすると、たとえ5%で回せても、もうけは5万円です。一方、金利0.95%でローン残高2000万円のときに繰り上げ返済100万円を行って浮く利息は14万円ですから、具体的に計算してみるとどちらがトクですか? 「率」で考える部分と「額」で考える部分をうまく分けて考えてみてください。

S子 分かりやすい! これで夫に反論できます(笑)。

「使途不明金」から年間160万円の繰り上げ返済を

前野 繰り上げ返済をこれから18回頑張って、2600万円分したとしましょう。すると、約400万円の利息が浮いて、17年3カ月ローン期間が短縮でき、2033年には完済できるようになります。ご主人が62歳のときですね。

S子 ローンを組むときに二人でシミュレーションした通りです。やっぱり定年前には返し終わらないと。

前野 まずは「何に使っているか分からないけど消えている」という「使途不明金」を、目的をもってためていくこと。現状では年間178万円ありますよね。

S子 やっぱり、そのお金は繰り上げ返済に回したいですね。今までは不妊治療や出産費用に使うのを言い訳にしてできませんでした。ちなみに、繰り上げ返済したとしても「老後の赤字転落」は変わらないですか。

前野 まずは年間178万円の使途不明金をなくして、貯蓄に繰り入れられた場合を試算してみましょう。ご主人が70歳、S子さんが63歳になったときにちょうどお子さんが就職します。今のままなら貯蓄が2400万円マイナスになりますが、使途不明金をなくして貯蓄に回せれば、1964万円プラスに変わります。

S子 おお、やっぱり。

前野 2400万円の赤字が1964万円プラスになるということは、その差は4364万円。使途不明金をちゃんとためるだけで、ご主人70歳時点の資産がおよそ4000万円変わるわけですね。

S子 使途不明金を繰り上げ返済に充てた場合、老後の貯蓄額はどうなりますか?

前野 繰り上げ返済に充てると早くローンを返すことができ、老後の住居費の負担も減ります。試算すると、70歳時点の貯蓄額は1074万円プラスになりますね。ただ、それでも74歳時には赤字転落してしまいます。

S子 74歳から貯蓄がマイナスって、ほんと老後貧乏ですよね。嫌だなー、それだけは。