退職金を前払いで受け取ると、定年時の一時金はないことも

前野 大丈夫ですよ。今日分からないことがあったとしても、「こういうことを調べておけばいいんだな」ということが分かれば、今後ご自身の中でアンテナが立っていきます。退職金があるかどうかは聞いたことがありますか?

E子 あるとは思います。毎年「退職金前払い」みたいなものがあるので。会社を辞めたときにもらえる退職金との関連性が分かっていないんですけど。

前野 なるほど。「退職金前払い制度」があるということは、定年時の退職一時金はない可能性がありますね。もともと会社はE子さんが入社したときに例えば、「60歳になったら退職金として2000万円出そう」と決めているんです。その原資を「今欲しい」という人には「給与に上乗せして前払いしますが、定年時の一時金はありませんよ」というのが、一般的な退職金前払い制度です。

E子 えっ、そうなんですか。もし前払いで受け取っていれば、辞めるときに退職金はもらえないんですか。

前野 そういうケースが多いです。ただし、退職金制度は会社によって異なるので、一度ご自身で職場に確認してみてくださいね。E子さんは、60歳以降はお仕事するご予定はありますか。もし続けるとすれば、年収はいくらくらいのイメージでしょう。

E子 そうですね。自分の健康状態に問題がなければ収入が減っても、何かしら続けたいですね。年収は、250万円くらいでしょうか。再雇用なのか全然違う仕事を選ぶのか…うーん、正直今まで考えたことがなかったです。考えてみます。

「自分たちが使えるお金」=「正確な手取り年収」を知る

前野 それでは収入を見ていきましょうか。N男さんの税込み年収が955万円、E子さんが629万円ですね。現状記入シートにはボーナス込みの手取り年収がN男さん660万円、E子さんは460万円と記入していただいていますが、正確にはもう少し手取り収入はありそうです。

N男 えっ、違うんですか。手取り月収35万円×12カ月分にボーナス240万円を足して手取り年収660万円と出したんですが。

前野 税込み年収から年間の社会保険料、所得税、住民税を差し引いたものが実際の手取り年収です。住民税の決定通知書はお持ちですか。

N男 えーと、住民税は月4万8200円です。

前野 そうすると年間の住民税は約58万円ですね。源泉徴収票の税込み収入の955万円から、社会保険の127万円、源泉所得税と書いてある所得税65万円、住民税58万円を差し引いた705万円が本当の手取り年収となります。同様に計算するとE子さんのほうも483万円ですね。シートには世帯の手取り年収が1120万円とありますが、実際は1188万円になります。先ほどお話した「自分たちの現在地はどこか?」のように、どれだけ使えるお金があるのか正確に把握することが出発点となります。