自分が本当に望んでいることを見つめてみよう
小早川 まず最初に、夫は自分に協力してくれる味方だと考えてください。人間は「感情の動物」です。意思決定は感情や欲求に左右されます。交渉は、相手のほしい感情、欲求を与えることでしか成立しません。皆さん、この「マズローの欲求・感情5段階説」のピラミッドを見たことがありますか。下から見ると、(1)生理的欲求(2)安全欲求(3)愛情欲求(4)尊敬欲求(5)自己実現欲求、となっています。
小早川 夫が欲しい感情を満たすことによって、自分の要求に「いいよ」と言ってもらう。そのために、夫が本当に欲している感情を見極めます。だから、交渉で一番大事なのは、話す力ではなく、聞く力。相手が何を欲しているのかを聞き出す力が必要です。
さらに、相手の欲求を見極めるのと同じぐらい大事なのが、自分の真の望みを見つめること。3つに分けて考えてみてください。
(1)BITA - Best Idea To Agreement
最善の理想案。相手がダメと言いそうな高い希望でもOK。本当に自分が欲しているゴールを考えてみます。
例)「毎日夕食後の食器洗いを夫にしてほしい」
(2)BATNA - Best Alternative To Non Agreement
最良の代替案。相手に理想案を断られた場合、次に叶えたいこと。
例)「週3日、夕食後の食器洗いを夫に担当してほしい」
(3)WATNA - Worst Alternative To Non Agreement
最悪の代替案。これに合意してくれなかったら、交渉決裂。「ダメならもうお手上げ」という最低限のボトムライン。
例)「日曜の夕食後は、夫に食器洗いをしてほしい」
すべてを満たす魔法の言葉「AKY」
小早川 実は、家族を相手にするほうが交渉は難しいです。お互い感情的になりやすいですから。どちらかが感情的になってしまったら、交渉はいったん休止します。
それでは質問です。皆さんのパートナーが満たされたい欲求はなんでしょうか。
全員 (沈黙)。
小早川 さきほどのピラミッドを思い出してください。上から4つの欲求をこれだけで満たすことができる、魔法の言葉があります。それが「AKY」です。
A:あなたと
K:結婚して
Y:よかった
全員 えー!(失笑がもれる)。
小早川 本心でなくてもいいんです。あくまでも交渉のツールですから。言うだけならタダですし、すごく“お得な言葉”なんです。だまされたと思って言ってみてください。言い続けることで、夫が朝食を作るようになったり、食器洗いが丁寧になったり、妻が「やってほしい」と思うことをやってくれたりするようになります。AKYを夫に2週間言い続けてください。できれば1日3回。
全員 えー、無理……(戸惑いの声)。
小早川 趣旨が変わらなければアレンジもOK。口に出すのが恥ずかしいなら、毎日コピペしてメールでもいいです。何ならスタンプでもいいです。
全員 えー(爆笑)。
高橋 あ、今聞いてハッとしましたが、うちの夫は「僕と結婚してよかったでしょ?」とやたら聞いてくるんですよ。その台詞を私に言ってほしかったんですね。いつも「バカじゃないの」と返してました(笑)。
小早川 ぜひ言ってあげてください。
加藤 確かに、もし社長から「君を採用してよかった」と毎日言われたら「何でもしますよ~」と思うかも。
小早川 それと同じです。ただ、急に言い出すと怪しまれるかもしれません。交渉は常に三手先を読むことが大切。「突然どうしたの?」と夫に聞き返されるのを想定して、事前に準備します。例えば「今日、友達の旦那さんのこんな話を聞いたけど、やっぱりあなたで良かったと改めて思ったのよ」とかですね。気を付けてほしいのは、お願い事をするタイミング。3日間ぐらいAKYを言い続けてから、その後にちらっとお願いを出してください。
加藤 そうか。社長に「君を採用してよかった」と言われた直後に、「じゃあこの案件3つお願いね」と仕事を振られたら、「あ、このためだったのね」とバレバレですもんね(笑)。
小早川 まさに、その通りです。言い続けていると早ければ3日目ぐらい、平均1週間ぐらい、遅くとも2週間ぐらいで変化が出てきます。