大事なことだけど、親子だからといって突っ込んだ話はしにくい「おカネの話」。金銭感覚をきちんと身に付けて賢くお金と付き合える子どもを育てるために、親はどうしたらよいのでしょう。米ニューヨーク・タイムズ紙でベストセラーリスト入りした邦訳『「おカネの天才」の育て方』(以下「おカネの天才」)から、親が子どもに伝えるべき内容を年齢層別にピックアップしてお伝えします。第2回は、「小学生」が金銭感覚を磨くためのお小遣い制についてです。

(1) 小学校入学前に貯金の習慣を身に付けさせるには?
(2) 小学生時代はお小遣い制で金銭感覚を磨く  ←今回はココ
(3) 中学・高校生 家事やアルバイトで金融経済を理解

 連載第1回は、未就学児が貯金する習慣を身に付けるために役立つアドバイスを取り上げた。今回は、小学生を対象に、お小遣い制で金銭感覚を磨くためのアドバイスを紹介しよう。

 日本では、小学生の7割強がお小遣いをもらっており、その6~8割が親からだという。

【1】おこづかいの有無、もらう相手
 ●おこづかいは、小学校の7割強、中学生の8割強、高校生の約8割が「もらっている」と回答している(図表1)。
 ●おこづかいをもらっている相手は、「親」の割合がもっとも高いが、小学生では、「祖父母」からもらう割合が4割を超える(図表2)。

中学生と高校生の「もらっている」は「もらっている(定期的に)」と「もらっている(必要の都度)」の合計。グラフの()内は前回調査(2010年)の結果。金融広報中央委員会2015年度「子どものくらしとお金に関する調査」を基に作成
中学生と高校生の「もらっている」は「もらっている(定期的に)」と「もらっている(必要の都度)」の合計。グラフの()内は前回調査(2010年)の結果。金融広報中央委員会2015年度「子どものくらしとお金に関する調査」を基に作成
金融広報中央委員会2015年度「子どものくらしとお金に関する調査」を基に作成
金融広報中央委員会2015年度「子どものくらしとお金に関する調査」を基に作成

 お小遣いのもらい方は、小学生低学年では「ときどき」もらっているが6割弱を占めるが、学年が進むほど「月に1回」の占める割合が増えていく(以下の図表を参照)。金額については、最も多い回答は「月に1回」もらう場合で500円、「ときどき」もらう場合で、低学年と中学年は100円、高学年は1000円となっている。

【2】おこづかいのもらい方、金額
 ●小学生のおこづかいのもらい方をみると、低学年では、「ときどき」もらっているとの回答が6割弱で最も多い(図表3)。
 ●中学年では、「ときどき」が最も多く、次いで「月に1回」となり、両者で約8割を占めている。
 ●高学年では、「月に1回」が最も多く、「ときどき」とあわせて8割強となっている。

金融広報中央委員会2015年度「子どものくらしとお金に関する調査」を基に作成
金融広報中央委員会2015年度「子どものくらしとお金に関する調査」を基に作成

 では、米国においては、どのようにお小遣い制を行うことにより、子どもの金銭感覚を磨こうとしているのだろうか。「おカネの天才」から、「お小遣い制がうまくいく5つのポイント」を紹介しよう。

■お小遣い制がうまくいく5つのポイント

 「私たち、ほんとにだらしないのよね」

 私がお小遣いについてたずねると、ほとんどの親は申し訳なさそうにそんな感じのことを言う。きちんとした習慣がないことを認めて、自分たちを最悪の親だと愚痴るのだ。「はじめの4週間はうまくいってたの」3児の母のキャシーはそう言っていた。「でもそのあとは決まった時にあげるのを忘れちゃって、そしたらすぐに夏休みがきて、誰にどれだけあげたらいいかわからなくなっちゃった」

 安心してほしい。お小遣いをあげるかどうかはそれほど重要じゃない。20件以上の研究を読んで出した結論がそれだ。研究の結果はバラバラだった。たとえば、カナダのある研究(※1)によると、お小遣いをもらっている子供はもらっていない子供よりクレジットカードとおカネについてよく理解していた。だがイギリスの研究(※2)では、お小遣いをもらっている子供は、お手伝いやアルバイトでおカネを稼いでいる子供に比べて貯金が下手だった。

※1 Rona Abramovitch, Jonathan L. Freedman, and Patricia Pliner, “Children and Money: Getting an Allowance, Credit vs. Cash, and Knowledge of Pricing,” Journal of Economic Pricing, vol. 12, no. 1, March 1991, pp. 27-45.

※2 Sarah Brown and Karl Taylor, “Early Influences on Saving Behavior: Analysis of British Panel Data,” Journal of Banking and Finance, vol. 62, January 2016, pp. 1-14.

 私はこう思う。この本のアドバイスに従って賢いおカネの扱い方を教えればいい。お小遣いについてはそれぞれの親が正しいと思うようにするといい。その上で、子供に少しずつおカネを与える方法として、お小遣い制は役に立つと思う。ただし、ここに書くルールに従うことが条件だ。

■ルール1:明快でわかりやすいルールにする

 単純で現実的な決まりにしよう。お小遣いで買っていいのは何かをはじめから子供に知らせておこう。家庭の事情はそれぞれに違うので、親がルールを決めてほしい。

 子供が小さいうちは、本当に基本的な決まりに留めよう。親は食べもの、洋服、友達の誕生日プレゼントを買ってあげ、映画代も出す。おしゃれな髪飾り、映画館のお菓子、iTunesのアイテムといったものは、お小遣いで買わせる。たとえば学校に着ていく50ドル程度の安いジーンズなら親が払って、たとえば100ドルのジーンズがほしいなら、差額をお小遣いから出す、とった具合だ。

 どんな取り決めにしても、その決定が気まぐれでないことを子供にはっきりと理解させよう。子供のお小遣いは、もっと大きな家計の中の一部だと伝えよう。

■ルール2:一貫性を持つ

 実際には、「正しい」ルールを作るより、決めたことを守り続ける方が重要だ。もちろん、『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ一家の子供みたいに、親が笛を吹いて子供を整列させ、毎週同じ時にお小遣いを手渡せれば、一番いいのだろう。でも現実には親があげるのを忘れてしまったり、子供がもらうのを忘れてしまったりする。そうなっても、すべて台無しというわけじゃない。また元に戻って、渡し忘れたお小遣いをあげ、スプレッドシートかワークシートを使って忘れないように努力しよう。

■ルール3:子供に任せる

日本の小学生の7割強が親や祖父母などからお小遣いをもらっている
日本の小学生の7割強が親や祖父母などからお小遣いをもらっている

 使い道のルールを決めるのは親でいい。お菓子は買いすぎないとか、おもちゃの拳銃は買わないとか、口紅はダメとか。だが大枠では、何を買うかは子供の自由に任せよう。特に中学生になったら子供にある程度任せていい。

 親が決めることの中で大切なのは、いくらあげるかだ。常識の範囲を知りたければ、ほかの親にどのくらいあげているかを聞いてみよう。年齢と同じ額を毎週あげるのがいい、という話もたまに聞く。

 10歳児に毎週10ドルあげる親もいるが、思春期前の子供に年間520ドルもあげるのはバカげている。それが予算オーバーだとしても、当然だ。もしそれだけのお小遣いをあげられるとしても、こまごましたものをしょっちゅう大量に買ってあげているようなものである。お小遣いをあげることは、子供にそのおカネの使い道を決める力を与えるということなのだ。

 10歳の子供には任せられないと思う親もいるだろう。でも、おカネがなくなって欲しいものが買えないのがどういうことかを経験するには、これが一番いい。そして、先ほどの一貫性がここで本当に大切になる。

■ルール4:現金を使う

 クレジットカードやそのほかのオンラインの決済を使うときは、気持ちが大きくなってしまうことは数々の研究で示されている(※3)。つい使いすぎてしまうのは、支払いの痛みが先延ばしされるからだ。だからこそ、子供に現金を与えることが大切なのである(もちろん、この現金をiTunesやそのほかのオンラインショップの支払いに充てる場合には、親が手を貸してあげていい)。

※3 Dan Ariely and Jose Silva, “Payment Method Design: Psychological and Economic Aspects of Payments,” Massachusetts Institute of Technology Center for Digital Business Paper 196, 2002. Drazen Prelec and Duncan Simester, “Always Leave Home Without It: A Further Investigation of the Credit-Card Effect on Willingness to Pay,” Marketing Letters, vol. 12, no. 1, 2001, pp. 5-12.

 子供にお小遣いを渡すときに、全部を使ってしまわずに一部を貯めることがどれだけ大切かを話そう。お小遣いをきっかけにおカネについて子供と話すことが、お小遣いそのものよりも大切だということは、さまざまな研究でも明らかになっている。

■ルール5:お手伝いとお小遣いを切り離す

 お手伝いは、他人を助けることの大切さと責任を子供に教えてくれる(※4)。ただし、お手伝いをおカネに結びつけない方がいい。お皿を洗ったり、洋服を片付けたりするたびに子供と交渉するのが嫌なら、お手伝いをしたらお小遣いをあげるという取り決めはやめた方がいい。お手伝いは日々の家庭生活の一部だ。日常的なお手伝い以外の仕事をやらせるときには、それにおカネをあげてもいい。でもそれは仕事に対するおカネで、お小遣いではない。

 お小遣いで子供を釣って、お手伝いやそのほかの親が望む行動をさせようとしても、逆効果になりかねない。多くの親はどうにかしたいと焦って、お小遣いを餌やご褒美にしてしまう。「ベッドメイクしなかったの?」バーン! お小遣いなしよ! 子供が、別に10ドル損しても、ベッドをきちんとしたくないとか、門限を守るつもりはないとか言い出したらどうする? 問題はおわかりだろう。しつけはお小遣いを餌にしない方法でやろう。お小遣いは別の問題として扱ってほしい。

※4  Research by Marty Rossmann cited in “Involving Children in Chores: Is It Worth the Effort?” ResearchWORKS, College of Education and Human Development, University of Minnesota, September 2002.

(『「おカネの天才」の育て方』P55-61)

「おカネの天才」の育て方

 子どもに賢いおカネの習慣と金銭感覚を身に付けさせるために、「おカネの使い方」「貯金」「借金」「保険」「投資」「学費」「社会への還元」などについて、子どもの年齢層に応じたアドバイスを、オバマ政権の金融教育諮問委員を務めたパーソナル・ファイナンスの専門家が伝授します。

 小遣い制をうまく行うには? いくつになったらクレジットカードを持たせる? 安全に投資するための最も大切な概念とは? など、具体的で実践しやすい教えとその理由をお伝えします。

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