アスリートを目指す女の子にとって、生理との付き合い方は大事な問題です。試合の日に生理が重なる場合だけでなく、体調が悪ければトレーニング内容にも影響する。いっそ、いっそ生理なんてなければいいのに、とまで思ってしまう選手もいるのだそう。アスリートを目指す女の子たちに、親は生理との付き合い方をどのように伝えたらいいのでしょうか。そこで、「月経周期をトレーニング、コンディショニングに生かせないか?」という研究をしている日本体育大学の須永美歌子さんに、出産・育児ジャーナリストの関川香織さんが話を聞きました。

無月経は健康を損なっているサイン。「正常」な生理について知ろう!

関川(以下、――)女子スポーツの世界では、「生理が止まるくらいまで頑張って一人前」という言葉が聞かれることがあります。無月経の割合は、一般の大学生で1.8%、日本代表選手レベルでは6.6%という数字(日本産科婦人科学会・国立スポーツ科学センターの調査)もあります。月経は、本当に女子がスポーツで勝っていくための障壁となるものなのでしょうか。

須永さん(以下、敬称略) そもそも健康は、3つの機能から成り立っています。生きるための機能、運動するための機能、そして次世代を残す機能です。心臓が動き、呼吸をしている状態が生きるための最低限の機能です。健康ならそこにアクティブに動ける機能が加わり、さらにもう一つの生命を作り出す生殖機能までそろっていることが、生物として健康な状態です。

 もし、体が疲弊して生きていくのにギリギリの状態で、「助けて」と悲鳴を上げている状態になると、この頂点部分の生殖機能を切り捨てることになり、生理は止まってしまいます。

 無月経は、生物としての一部の機能を失っていることを表すサインです。だから、「トレーニングによって無月経になって一人前」というような言い方はとんでもないこと。そんな考え方は撲滅したいです。

 なぜ、トレーニングし過ぎると生理がこなくなるかというと、ホルモン分泌をコントロールしている視床下部がうまく働かなくなるからです。視床下部は、ストレスやオーバートレーニング、過度な減量の影響を大きく受けます。視床下部は、女性ホルモンの分泌を制御しているため、正常に機能しない場合には、生理が止まってしまいます。10代の前半からハードにトレーニングしてきた新体操などの審美系アスリートでは、21歳で初めて生理がきたという例もあります。

 オーバートレーニングになった場合、女性は女性ホルモンの分泌が少なくなり、男性は男性ホルモンの分泌が少なくなります。女性には無月経というサインがありますが、男性にはそのような分かりやすいサインがありません。そのため、オーバートレーニングだということに気付かないまま、厳しいトレーニングに励み、ますます疲弊してやる気がなくなったり、けがをしてプロが引退に追い込まれてしまうこともあります。

 子どものスポーツの世界でも疲弊して「だるい」と言えば「気合が足りないからだ」と言われてしまう場面もあります。例えば、オーバートレーニングが原因で毎日「疲れた」と言ったり「もう部活に行きたくない」と言うなどのサインはあります。それを精神論で片付けず、心と体のサインだとキャッチしてあげることはとても大切なことです

―― 無月経になってしまう前に、「だるい」と訴えるなどのサインがあるということなのですね。その他にオーバートレーニング傾向にはどんなサインがあるのでしょうか。

須永 無月経とは3カ月以上生理がない状態ですが、いきなりそうなるわけではなく、その前に、生理不順の時期があるはずです。生理が月によってきたりこなかったり、とびとびになっている、という段階で「もしかしたら、疲れている? 食事や睡眠は大丈夫?」と考えてほしいですね。もちろん、初経を迎えていない子には当てはまりませんし、初経から3~4年の月経周期は不順なものですが、あまりに月経がとびとびな状態は無月経につながるサインです

 生理は28日周期で5日間ほど続く、と認識している人が多いですが、実際には生理の周期は人によって異なります。医学的には、25~38日の間で周期がある程度安定していれば正常です。また、月経期間は、3~7日が正常です。

 さらに出血量がどうなのか、何日くらい続くのか、痛みの有る無し、PMS(月経前症候群)の有無と程度など、生理は人によって違いがあります。自分の生理が正常なのか異常なのかを、まずは知ることが必要ですね。

―― そこはやはり、親が正しい知識を持っておくことが必要となりそうですね。ただ、まだ月経がきていない子どもの場合、どうしたらいいでしょうか。