日本の義務教育では、子どもたちが性教育を学ぶ機会はとても少ない、ということをご存知でしょうか。内容においても、学習指導要領において、「受精に至るまでの過程についてはふれない」となっていて、女の子の生理や男子の精通、受精以降の妊娠に関する解剖学的な知識は教えるものの、性交については取り扱わないとされています。そのため、「人との関わりにおいて大切なこと、人にとってにセックスとは何だろう」と言ったことについては学ぶ機会がないのです。

 「それでは子どもの将来が心配、今できることはないの?」とある小学生ママグループが立ち上がり、勉強会を開きました。その経緯と、当日の様子を、出産・育児ジャーナリスト関川香織さんがルポします。

学校だけでは不十分と感じ「自分たちで」と考えた

講座の風景。食べ物・飲み物は持ち寄りで、リラックスしたママ会のような雰囲気。右側が土屋麻由美さん、左側がフクチマミさん
講座の風景。食べ物・飲み物は持ち寄りで、リラックスしたママ会のような雰囲気。右側が土屋麻由美さん、左側がフクチマミさん

 今年の7月某日、都内の区民センターの会議室の一室に、11人のママたちが集まりました。講師には、性の健康教育の活動を展開している助産師の土屋麻由美さんを迎えています。夕方の時間帯、食べ物や飲み物を持ち寄って、茶話会風にスタートしました。

 発起人のフクチマミさんは、小4と小1の女の子のママ。フクチさん自身はマンガイラストレーターとして活躍中ですが、この講座を開いたのは、仕事とは関係なく、一人の母親としての思いから。開会のあいさつで、その思いをあらためて語ります。

 「長女が4年生になり、時々『胸が痛い』と言うようになり、体が思春期に入りつつあるんだな、ということを感じていました。そこで『性教育、どうしたらいいんだろう?』と、あらためて思うようになりました」

 「そういう話は学校でやってくれるのかな、と思っていたら、どうも肝心なところは教えないらしいと分かり、それだったら家庭でフォローしなくちゃ!……とも思ったけど、実際には、いつ、何から、どう言えばいいのか、分からないことだらけ。だったら、プロに聞いてみよう!と思ったのが、この会を企画した発端です」

 「せっかくだから、最大公約数的なことを聴くのではなく、もっと個人的な事情も話しつつ、どんどん不安を解消していける場にできたらと思っています」とフクチさん。

 勉強会を開催するに当たり、学校では教えないのなら、自分たちで主催しよう、PTA主催でできないか、という案もあったそうですが、それはかなわず、この日を迎えました。その話は後述することにします。

ユネスコのガイダンスでは性教育は幼少期から

 さて、会はここから本題。今回の講師、土屋さんの話がスタートしました。

 「私は、東京の練馬区で『麻の実助産所』を開業している助産師です。自宅分娩を扱っています。これまで助産師としてお産に立ち会った場所は、大学病院、助産所、クリニック、自宅と多岐にわたります。様々なおうちの赤ちゃん訪問もしてきました」

 「お子さんが妊婦健診やお産に立ち会うこともあって、身体のことや妊娠・出産について、良い機会だから、子どもたちに伝えておきたいなと思った経緯もあり、性の健康教育を開くようになりました。それ以前に、私自身が性のことを家では話してもらえなかったという経験から、自分の子どもとは性について話ができるようにしたいなと思っていて、このような場の必要性も感じていました」

 「普段は、小さい子どもたち自身に性のことを伝えるワークショップも開いています。ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスでは、性の教育は幼少期からといわれています。それを知って、ああ私の活動は間違ってなかったな、と思ったりもしています」

「にんしんSOS」のパンフレットと、当日配布されたテキスト。テキストがあるのでメモをこまかくとる必要がなく、参加者は話を聞いたり考えたりすることに集中できるという配慮が
「にんしんSOS」のパンフレットと、当日配布されたテキスト。テキストがあるのでメモをこまかくとる必要がなく、参加者は話を聞いたり考えたりすることに集中できるという配慮が

 「一方で、『にんしんSOS東京』という取り組みもしています。妊娠にまつわる困り事に対して、電話・メールでの無料相談を受けていて、時には保健センターや病院に付き添ったりすることもしています」

 「妊娠中って、幸せな人ばかりではなく『どうしたらおなかの中で赤ちゃん死んでくれる?』と悩んで相談に来る人もいます。そうした多様な人の気持ちとも向き合ってきました」(土屋さん)

 女性にとって、セックスは妊娠・出産と切り離すことができません。その視点から、性についての教育の必要性を強く感じているという土屋さんは、一方的な講義だけではなく、ワークショップ形式で勉強会を進めます。途中、ママたちに投げかけたのはこんな質問です。

 「皆さん、ご自分自身は何才ごろから『赤ちゃんはどこから、どうやって生まれるの?』『セックスって何?』という興味・関心を持ちましたか?