性暴力や性犯罪のニュースは聴く人の心を重くさせます。そのような犯罪が無くなってほしい、わが子が加害者、被害者のどちらにもならないように、そのためにはどうしたらよいのだろう、と親なら誰でも思うでしょう。その加害者が高等教育を受けたはずの名門大学生や医師、エリート層であることがあります。学業がストレスになるのでしょうか? それとも他の要素があるのでしょうか。もしかして男の子なら誰でもそうなる可能性があるのでしょうか。子どもたちの未来のためにとても気になります。
 そこで連載第3回では、出産・育児ジャーナリストの関川香織さんが、性教育の研究家・村瀬幸浩先生に、幼児期から思春期前の子どもを持つ親が知っておきたい話をお聞きしました。「うちの子には性教育なんてまだ早い」と思うかもしれませんが、性教育は幼児期から始められます。お子さんの性別を問わず、ぜひじっくりお読みください。

自分の体について「いいイメージ」を持つような育て方をしてほしい

関川(以下、――)私も男の子の母親ですが、男の子の性教育というテーマは、母親にとっては、難しいものです。学校の中で性教育がされていないなら、家庭で伝えていきたい、とは思うものの、まだ何も知らない思春期以前の男の子に、そもそも性教育って必要あるのでしょうか。また、思春期になってからいきなり性の話をしようと思っても、唐突過ぎて、何をとっかかりにしたらいいのかも分かりませんでした。どうしたらいいのでしょう?

村瀬幸浩先生。私立和光高等学校にて保健体育科教諭として25年勤務した後、一橋大学でセクソロジーを25年間講義した性教育の専門家
村瀬幸浩先生。私立和光高等学校にて保健体育科教諭として25年勤務した後、一橋大学でセクソロジーを25年間講義した性教育の専門家

村瀬先生(以下、村瀬)「性の話」というと、イコールセックスの話と考えられるようですが、それは間違っていますよ。また、子どもにいきなり赤ちゃんはどこから生まれるのか、などの話をするなんてできないし、するべきでもありません

 小学校低学年、またそれ以前の段階で伝えておきたい大切なことがいくつかあります。一つは自分の「体観(からだかん)」、体に対するイメージを肯定的なものにしてあげたい、ということ。どういうことかというと、例えば、男の子は赤ちゃん時代から自分のペニスをいじることがありますが、そんなときにどういう言葉をかけますか? 「汚いから触っちゃダメ」と言えば、「そうか、これは汚いものなんだ」と思うわけです。一方で「大切な傷つきやすいところだからむやみに触らないで」と言えば、大切な場所だなと考えるようになるわけですよね。

 男性でも女性でも、特に口や、下着で覆われている部分は「プライベートパーツ」といって、自分だけの大切なところです。プライベートパーツを乱暴に扱ったり、無理やり触ったり触らせたりすることなど、あってはならないことです。

――でも、小さい男の子って、ふざけてペニスをやたらと見せたがったり、「おちんちん」という言葉を言いたがったりする時期がありますね。

村瀬そうですね、大人の気を引きたくてやっている場合もありますが、このときにも「汚いから見せないで」「いやらしいことを言ってはダメだ」というのではなく「大切な場所だから人に見せたりしないで、ちゃんと下着を着けて保護しよう」という教え方が正解ですね。

 幼児期や小学校低学年のころのプライベートパーツ(口、胸、お尻、性器など)の扱われ方によっては、屈辱感やコンプレックスの原因になることがあります。それは、親が想像する以上に深刻なことです。これは大げさではなく、成人してからの性生活にも影響しかねません。自分の体をいとおしいと思えないと、自分の体を大切に優しく扱うことができないし、他人の体も大切にできません。そのために貧しいセックスしかできない人になってしまいかねない。体を大切にする、肯定的な体観を育てるのは、こういう毎日の言葉がけや体の扱われ方なのです。