「仲良くする」のが前提ではなく、様々な人との関係について知ることが先では

田代 ガイダンスの中では「関係性」も重視されています。「関係性」をどう学ぶかということについて、「ガイダンス」の内容は示唆に富んでいます。たとえば、日本の道徳では「家族への感謝」「友達との信頼」というように、家族や友達は大切という前提から話が始まりますが、ガイダンスの中では、「家族とは何か?」「友達とは何か?」を考えることが課題となっています。

 「ガイダンス」の中の友情というテーマでは、「色々な友達がいる」ということから始まり、その中には「悪い友達」もいると書かかれています。一方で日本の道徳では、「友達と仲良くする」ことが前提になっていて、仲良くできない子とはどういう関係性をもったらいいのか、ということについて考えたり学んだりすることはできません。その結果、「悪い誘い」をどう断るか、自分と意見が違う人とどう付き合っていったらいいか、というスキルが身につかないので、イヤと言えない、自己主張できないということにつながっていきます

 これは、例えばいじめがあったとき、流れに引きずられて一緒になっていじめに加わるのではなくて、「そんなことはやめようよ」と言える力を育むことができないということです。

 性的な関係の中でも同様です。関係性について学ぶということは、自分はどうするのか、どうしたいのかを考え、それを他者に伝え、行動を選ぶ力につながるのです。

「知っている」ことよりも「どう行動するのか」が大切

田代 もし、「コンドーム」という言葉は知っていたとしても、それはどこで買えて、いつ装着していつ外すのかということも分からないと、実際に避妊や性感染症予防はできませんよね。もっと大切なことは、具体的な関係の中で使えるかということ。パートナーから、「今日は安全日だよね」と言われて、そこで「使って」と言えなければ、結局、コンドームは役に立ちません

 普段からパートナーとそういう話ができる関係をどうやって作っていくか、ということが重要なのです。

 大学で学生たちに「相手と性について話しをしたことがないのに、性交はしているって、考えてみたらおかしくない?」と話すと「そうかも」と思うようです。まじめな学生はその後、「パートナーと話してみました」と報告をしてくれることもあります。そもそも性交することについてどう思っているのか、性交の結果としての妊娠や性感染症にどんな不安を持っているのか、性感染症の検査を一緒にしてみようとか、そういう話はまずしていないですよね。学生に限らず、日本人の大人もです。

―― たしかに、大人も、性のことについて真面目に話すという空気はないかもしれません。

田代 子どもたちが、将来そうできる大人になるためには、性については大切なことだから話し合おうとか、相談していいんだということを学ぶ必要があるわけです。そうすれば、子どもたちはわからないことはちゃんと調べるだろうし、信頼できる大人に聞けるようになるはずです。信頼できる大人を見つけられず相談したくてもできないから、AVやインターネットの間違った情報を信じて頼ってしまう。相談ができる・話していいという土壌があることは、知識を持っているということと同様に大事です。

 「性の話をすることは恥ずかしいことじゃないし、困ったら相談していいんだよ」ということが、大人が子どもたちに伝えるべきいちばん大切なメッセージなんです。

 だから、親は、性についてどういう言葉で教えるかを考えるよりも、安心して相談できる人になるということを優先してください。教える側は完璧でないといけないと思いがちですが、そんなことはないんです。子どもが聞いてきたときに、知らないことをごまかさなければいいだけだし、分からないことは、一緒に調べる姿勢があればいいのです。そのための本や絵本はたくさんあります。

 子どもが安心して相談できる大人となるには、親自身が性に対してポジティブな態度を持つことです。性に対して「恥ずかしい・後ろめたい・悪いもの」というイメージは持たず、「大切なこと、でもプライバシーは守るべきもの」といったイメージを持つことです。

 親世代も、包括的な性教育は受けてきていませんから、自分自身のセクシュアリティを問い直す必要があります。親の態度によって、子どもの性に対するイメージは左右されます。

 例えば「赤ちゃんはどこから生まれたの?」と聞かれたときに、「産道っていう赤ちゃんの通り道を通ってきたのよ」と言えば済んでしまうかもしれないのに、それを答えるときにドギマギしてしまうのは、実は大人自身が真っ先にポルノを思い浮かべているからかもしれません。だから、自分のセクシュアリティを問い直すということ、そこがいちばん重要じゃないかと思います。

ヨーロッパの「スタンダード」のコピー。0~4歳の項目で、テーマは、「人間の体と人間の命の誕生」。体のパーツの名称を覚えること、仕組みについて知ることからスタートする
ヨーロッパの「スタンダード」のコピー。0~4歳の項目で、テーマは、「人間の体と人間の命の誕生」。体のパーツの名称を覚えること、仕組みについて知ることからスタートする