人手不足と生産性向上の必要性から、「働き方改革」が進んでいます。この4月からは「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が順次施行され、効率的な働き方がさらに求められるようになります。第5回では男性の育休取得を取り上げます。

(日経DUAL特選シリーズ/2019年2月収録記事を再掲載します。)

【脱! ざんねんな働き方改革特集】
(1) 働き方改革は8割浸透 でも「ざんねん」も満載
(2) ツールや制度導入だけではダメ 仕組み変える意識で
(3)  長時間労働対策「21時になったら電気消す」は×?
(4) 人材育成「新人は気合で覚える」は× 解決策は?
(5) 男性育休「2~3日有給消化」では単なるお仕事体験  ←今回はココ
(6) 健康経営「休養室は宿直室」は× 眠りで生産性向上

男性育休、「率」を高めることだけに走っていない?

 政府は2020年の男性の育児休業取得率の達成目標を13%と掲げていますが、現状は5.14%(厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査」)にとどまっています。共働きが多数派となり、多様な人材の活用が叫ばれている中、男性の育児参画を進めるにはどうしたらよいのでしょうか。育休を体験する男性が増えることが、会社や社会にとってプラスになると考えている2社の取り組みを紹介します。

ここが残念!
有休を使って2~3日、妻の手伝いをしただけで「育休」と考える男性、職場

明治安田生命、メール、電話の積極的勧奨で男性育休の取得率がアップ

明治安田生命人事部ダイバーシティ推進室の築舘友基さんと宇田川萌さん
明治安田生命人事部ダイバーシティ推進室の築舘友基さんと宇田川萌さん

 日本初の生命保険会社として知られる明治安田生命保険相互会社は業種柄、女性職員が9割を占め、内勤職員を見ても6割が女性と言う職場です。女性は結婚出産を経て、復職し、活躍し続けるのが当たり前という社風で、制度も整っていました。「しかし、これからの時代、社会全体で女性が活躍するためには、男性もしっかり育児をして、その中で得られる新たな価値観を味わってほしい。そうした目的から、男性育休の取得率アップを重点取り組みと位置付けました」。人事部ダイバーシティ推進室の築舘友基さんはそう話します。

 その取り組みの結果、2017年度の男性育休取得率は91.5%と2016年度の67.3%から大幅にアップ。その背景にはどのような施策があったのでしょうか。

 同社の宇田川萌さんによると「当社では育休の取得期限が出生から2年間あります。これまでも期限の半年前までに取得していない人にはメールで連絡をしていましたが、2017年度からは、所属長と直属の上司にもメールを送り、電話でも連絡をして取得勧奨を行う」とより積極的な確認方法に変えたのだそう。

 「ワークライフに関わる制度を利用するとポイントを獲得できる『ワーク・ライフ・デザインプログラム』という取り組みがあるのですが、育休を取得しやすい雰囲気を社内に醸成するために、ここにも工夫をしました。育休を取得することでもポイントが得られ、所属長の評価にも反映されるようにしたのです。5日間以上取得すると更に高いポイントが付くように設定しています」

イクボス宣言やダイバーシティ研修により、多様性受け入れる雰囲気が醸成

 明治安田生命は「人財育成、健康増進、働き方改革、多様性受容」という4つの重点領域をけん引していく人をイクボスと定義。社長自らがイクボス宣言をし、管理職へのイクボス研修も実施しています。イクボス宣言をしたそれぞれの管理職は、その宣言の実現に向けて、1年間PDCAを回し、その取り組みを部下が評価。「自分の上司はイクボスだと思うか」という質問には7割以上が肯定するという結果を出しています。

 また、毎年、各職場の管理職、女性職員の代表(合計約350人)を対象に『ダイバーシティ・フォーラム』を実施し、多様な価値観を受容する大切さやアンコンシャスバイアスとの付き合い方について学ぶ機会も設けています。こうした取り組みが浸透し、各職場において、価値観やワークスタイルの多様性を受け入れ、協力し合おうという雰囲気が醸成されてきているそう。

 「それぞれの業務の都合もあるので、育休取得は強制していませんが、先ほどの勧奨強化の取組みと合わせて、ダイバーシティ&インクルージョンの理解・浸透が進んだこともあり、現在では電話で勧奨しなくても、自分から育休を取得する男性職員が多くなっています。全員が活躍意識を持って社会に貢献し、本当の意味でのダイバーシティに到達できるように、さらに取り組みを続けていきます」(築舘さん)

 次ページからは、社長のトップダウンで男性社員の育休1カ月を必須にする制度を導入した、積水ハウスの取り組みを紹介します。2~3日で終わってしまうことも多い男性育休を1カ月とした理由や、高齢化社会を見据えての思いをダイバーシティ推進部の担当者に聞きました。

<次のページからの内容>
● 積水ハウス、男性育休1カ月完全取得宣言。社長の思いは?
● 完全トップダウン 社員にもどよめきが起きた
● 計画書作成が職場、家族のコミュニケーションのきっかけになる
● 取得きっかけに残業減。部下が成長し、生産性も上がる
● 育休取得経験は介護時代への備え。ノウハウ蓄え、筋肉質な会社へ成長を