表面上の改革ではほころびが生じる

自社の働き方改革で「ざんねん」な点

評価制度に不満

「外国人やシニアなどの人材の多様性は重視されているが、育児との両立の観点での多様な働き方や、残業抑制、時間当たり生産性による評価等に関する取り組みはまだほとんど見られない」(37歳、女性、エネルギー、専門職)
「復帰が4月に入ってからだったので、次年度の能力評価は自動的に平均よりも一段階低くなる、と言われた。それは能力評価ではなく、勤務評価に影響するだけなのでは? 10月からの復帰ならまだ分かるが、4/18から復帰してほぼ丸一年働くのに、それはあんまりだ」(31歳、女性、その他製造、企画・広報・マーケティング部門)

リモートワークが残業の隠れみの

「リモートワークの日が残業の隠れみのになってる人がいる。月で超えてはいけない残業時間が決まっているので、月末になりそれが危うくなると在宅勤務にして、終業時刻を偽る=サービス残業になっている」(40歳、女性、市場調査、製造・生産部門)
「外資系のため欧米のような働き方に近く、残業も少ないが、海外との会議は時差の都合で夜になるのでそこが大変」(40歳、男性、商社、企画・広報マーケティング部門)
「部署でそぐわないから導入しなくてもいいという隠れみのがあるため、部課長で働き方改革に反感を持つ人は、導入しなくてもよいことになっている。部下が割を食っている」(39歳、女性、電気・電子機器、販売・営業部門)
有休中でも家で電話かけたり仕事ができるよね?と言われた」(33歳、女性、卸売・小売業・商業、販売・営業部門)
「テレワーク制度が導入されたことで帰宅後の深夜作業が可能になり、数字(残業時間とならない)稼働時間の負担が増えた。スタッフ部門はテレワークの稼動時間が厳格に管理されており、長時間や深夜は作業禁止となっているが、営業部門やSEなどはフレキシブルに働けるようにとされていることがあだになっている感じがある。私個人についても、親や親戚が近くにおらず、主人も不規則な勤務で頼れないため、子どもが寝た後に深夜まで仕事をすることもあり、悪いほうにテレワークが活用されてしまっている感もある」(46歳、女性、情報処理、販売・営業部門)

働き方改革の意思を感じない

「働き方改革のためのプロジェクトが発足されたが、結局勤務時間と評価方法を決めるだけで、肝心の意識改革に話が行かない」(40歳、女性、建設、販売・営業部門)
「トップの強い意志で強力にドライブするという勢いが感じられません。女性は増えたものの昭和の男性中心の会社で働き方を変えなければならないという腹落ち感は部長以上の層にはほぼないと思われます」(36歳、女性、製造、人事・労務部門)
「その部署の管理職の意識によって取り組みに差がある。管理職の意識改革が必要」(37歳、男性、大学教員)
「ダイバーシティや働き方改革を推奨しているが、過去に作った就業規定はそのままで何かが起こると就業規定を持ち出されるものだから、自由度が低くてみんなが新しい試みに踏み出すことにしり込みしている」(46歳、男性、自動車・輸送機器、技術・研究開発部門)

 何かやらないといけない、と動き出している企業は増えているのは間違いありませんが、その運用方式には「ざんねんな部分」があるのかもしれません。試行錯誤してもうまく回せず、“迷いの森”に入ってしまっている企業もあるのではないでしょうか。

 ワークライフバランスに詳しい中央大学大学院戦略経営研究科教授の佐藤博樹さんは「働き方改革の目的は、単純に長時間労働を削減することや、従業員に休暇を取らせることではありません」と言います。

 「最大の目的は、一億総労働力の時代に多様な人材を生かす、ということです。これは同一労働で、正社員とパート契約の是正なども含まれます。そういったものをすべて解消するには、単に休みを増やせば言いだろう、とか、単にテレワーク制度を整える、といった表面上の安易な是正では、ほころびが生じます」と言います。

 塚越さんは「働く人々が多様になると、制度の設計や運用も柔軟性を高めることがとても大切になります」と言います。

 「多様な人材が求められるこれからの日本の職場においては、人が制度に合わせるのではなく、制度が人に合わせるケースが増えていくと考えています。制度は現時点で当事者の自分だけでなく、このあとに続く職場メンバーが将来当事者になったときに大きな影響を与えます。そのとき自分が我慢をすると、次の人も同じ困難な状況を経験することになり、制度疲労が高まります。繰り返し声を上げ、同じ思いの仲間を増やしていくことも大切です」。

 自分の職場環境が周りから見て「ざんねん」だったとしても、環境に身を置き続けて慣れてしまっていることに気づかないことがあるかもしれません。そんな人にはもちろん、すでに職場環境を変えたいと思っている人にとっても「声を上げていく」ためのヒントを次回から紹介します。

(取材・文/日経DUAL編集部 羽田 光、イメージ写真/PIXTA)