答えを出すのではなく、第三者の視点で考える力を

 「環境問題に明確な答えはありません。動物になりきって考えるのは、第三者の視点を持つための演出。自分中心の発想では思いつかないことに気付き、関心のあるテーマを見つけてもらうことが狙いです」と、プロジェクトを立ち上げたヌールエ デザイン総合研究所代表の筒井一郎さんは話す。子どもは素直なので、「エコバッグを使いましょう」「エアコンの温度は26度にしましょう」と言われたら、「はい」と従う。でも大切なのは、なぜそうする必要があるのか、背景にはどんな出来事があるのかということへの想像力を働かせることだ。

 

 ゴミ問題、森林破壊、発電…。人間が生活し経済活動をすること自体が、そもそも環境に悪いこと。それを知ったうえで、人間と自然と動物が共存していくためにはどうすればいいか。「動物かんきょう会議」を通して、子どもたちは「考える力」を養っていく。

昨年10月に行われた「せかい!動物かんきょう会議 in 伊豆ユネスコ自然学校」より
昨年10月に行われた「せかい!動物かんきょう会議 in 伊豆ユネスコ自然学校」より

表現する楽しさに目覚める

 アニメ同様、ワークショップも世界の子どもたちが集まって一緒に行う。進め方はこうだ。5人くらいのグループに分かれ、まずは一人ずつ身近な動物のキャラクターを考える。住んでいる場所や性別、家族構成、性格などの細かい設定を作り、絵に描いてグループ内で披露。「彼女はいるの?」「どんな仕事をしているの?」などの質問に答えながら、さらに設定を深めていく。ここからいよいよ動物になりきっての「会議」がスタート。ワールドカフェ形式でグループのメンバーを変えながら、「人間と動物は共存できる?」「人間にどうしてもらいたい?」といったテーマについて世界中の動物たちで話し合う。

 今は人間の「私」ではなく「ノラネコの〇〇」であり「カラスの〇〇」。だから発言するときも、話し方や鳴き声など、自分が考えた動物のキャラクターとして表現する。「最初はおとなしかった子も、生き生きと表情豊かに変わります」と筒井さん。日本人の子どもが苦手な「表現する力」も身に付くという。

 昨年12月には初の試みとして、日本語学校に通う留学生16人がファシリテーターとなり、新宿区立大久保小学校の小学5年生の総合学習として3回にわたるワークショップを開催。「動物たちが人間から受けている被害」をテーマに、多様なルーツを持つ同校の子どもたちが、動物の目線で白熱した会議を繰り広げた。

(取材・文/日経DUAL編集部 谷口絵美)