デング熱は治療薬がない 蚊に刺されないように!

 修学旅行で関西地方を訪れた東京の子どもたちがデング熱に感染したというニュースを記憶している人がいるかもしれません。しかし、すでに感染者が出た地方だけの問題ではないのだといいます。

 「デング熱は、ネッタイシマカやヒトスジシマカという蚊が媒介して感染していきます。海外から人がウイルスを持ち込み、その人の血を吸った蚊の唾液腺の中でウイルスが増殖し、他の人を刺すことで感染が広がっていきます。人から人へ直接感染することはありません。日本ではヒトスジシマカという蚊が媒介することが多いのですが、すでに本州以南全域に生息しているとされています。蚊は日本では越冬できないのでは? と思われるかもしれませんが、蚊の卵でもウイルスは感染します。そのため卵の状態で越冬することも考えられます」

 子どもがデング熱に感染すると、どのような症状が出るのでしょうか。

 「蚊に刺された1週間ほど後に、ひどい頭痛や関節痛などが起きます。そして皮膚が赤くなります。インフルエンザと症状が似ていますが、大きな違いは皮膚に赤みが出ることです。重症になるとこれらの症状に加えて、血管から血液の水分がしみ出して全身を循環する血液量が低下してしまい、いわゆるデングショック症候群と呼ばれる状態になることがあります。

 治療薬はなく、解熱剤の投与や水分補給などの対症療法が中心になります。しかし何より問題なのは、デング熱を診察したことのある医師は国内にほとんどおらず、世界では普通に使われている迅速診断キットも市中の病院にはありません。そのため受診の際には『蚊に刺された』ということを、必ず医師に伝えてください

 対策としては、どんなことをすればいいのでしょうか。

 「基本、ワクチンがないため、デング熱の予防策としては、蚊を繁殖させない、刺されないことしかありません

 実はワクチンは1種類だけあるのですが、一度デング熱に感染したことのある人しか接種を受けられません。なぜなら、感染したことがない人がワクチン接種を受けると中途半端に免疫ができてしまい、次に感染したときに重症化するリスクがあるのです。たいていの日本人はデング熱に感染したことがないため、ワクチンの接種は受けられません。蚊を繁殖させないための対策としては、日本は雨が多いですから、側溝や雨どい、植木鉢(鉢の受け皿)などの手入れをこまめにしてください。水たまりを放置しておくと、ボウフラが繁殖してしまいます。

 蚊に刺されない対策ですが、虫よけ剤の使用が有効です。日本ではスプレー型の虫よけ剤が多用されていますが、噴射された量のうち、皮膚に付着するのはわずか2割程度といわれます。スプレー型は手軽ですが、できるだけジェルなどの塗布型の虫よけ剤を使ってください」

 虫よけ剤にはいくつかの成分があります。「成分は大きく分けて、DEET(ディート)とイカリジンがあります。DEETを使うとかゆくなる人もいますから、小さなお子さんや赤ちゃんにはイカリジン配合のものがお薦めです。15%濃度のものだと効果は8時間程度ですから、こまめに塗り直してください

 年末年始に海外に旅行する人も多いと思いますが、蚊に刺されないよう虫よけ剤を活用してくださいね。

久住 英二
ナビタスクリニック理事長 
1999年、新潟大学医学部卒業。1999年、国家公務員共済組合連合会虎の門病院にて内科研修開始。2005年、同病院・血液科スタッフ。2006年、東京大学医科学研究所・先端医療社会コミュニケーションシステム・社会連携研究部門客員研究員。2008年、JR立川駅の駅ナカに、「ナビタスクリニック立川」を開設。トラベルクリニックでは、国内で販売されていない、必要量が足りていないワクチンを輸入して、海外渡航に必要なワクチンを提供している。

取材・文/渡邉由希  イメージ写真/PIXTA