子どもの便秘というと「ちゃんと野菜を食べていないから」と親の問題とされがちです。また、周囲に相談できる窓口がなかったり、かかりつけの小児科医に相談しても「そのうち治る」「病気ではない」と言われ、浣腸だけしておしまいというケースも少なくありません。

実は子ども自身もつらい思いをしていて、お腹が痛かったり、友達から「おならが臭い」と言われたり、恥ずかしくて言えないなど、密かに自尊心が傷ついていたりします。

こうした便秘に悩む人たちを、どう救っていったらいいのかについて、「大人が知らない【子どもの慢性便秘症】の実態と世界標準へと歩み出した最新治療 ~便秘難民ゼロを目指して~」セミナー(2019年3月)が、済生会横浜市東部病院・小児肝臓消化器科副部長の十河 剛さんを講師に迎えて開催されました。セミナーの内容を抜粋してご紹介します。

2割の子どもは便秘の悩みを抱えている

 セミナーの冒頭では、驚きのデータが発表されました。

 3~8歳の子ども3595人(横浜市鶴見区)を対象とした「食事と排便に関するアンケート調査」1)では、718人の子に慢性便秘症の症状がみられました。15~20%の子どもが便秘の問題を抱えていることになります

 便秘は、排便回数だけでなく、腸内に過度に便がたまっていたり、排便時に痛みを伴うなど快適に便を出せないでいたりなどの問題も含みます。

 調査項目は表のような内容ですが、すべての項目で、便秘の子は、そうでない子より数値が高くなっているのが分かります。

便秘の子 便秘ではない子
週に2回以下のトイレでの排便 15% 1.8%
少なくとも週に1回の便失禁 46.3% 5.5%
便を我慢する姿勢や過度の自発的便の貯留の既往 73.6% 10.9%
痛みを伴う便通の既往 61.5% 12.8%
硬い便通の既往 43.6% 12.7%
トイレが詰まるくらい大きな便の既往 21.0% 2.0%

1) Fujitani A,et al. Gastroenterol Res Pract. 2018;2018:3108021.

 実はこれらの項目は、機能性便秘の国際的診断基準(ROMRⅢ)に沿っています。

 便秘というとどうしても“3日に1回しか便が出ない”など排便回数に目が行きがちですが、“便失禁をする”、“我慢しがち”“腸に便がたまっている” “排便時に痛みが伴う” “便が硬い”などなども便秘の症状なのです。

 便秘の子は、そうでない子より、便を我慢してしまったり、便をするときに痛みを訴えたりしている子が非常に多いことが分かります。

 医学的に便秘の症状として挙げられるものには、「腹痛、裂肛、直腸脱、便失禁、肛門周囲の付着便や皮膚びらん、嘔吐・嘔気、胃食道逆流・げっぷ・口臭、集中力低下、夜尿・遺尿」があります。

 たとえ毎日便が出ていても、便秘の可能性があるのです」と十河さんは指摘します。

 次のページでは、ある女の子の事例をご紹介します。