2030年には日本の労働人口の49%がAIやロボットに代替される、というレポートが発表されたのは2015年のこと。2030年といえば、今からたった12年後。DUAL世代の子どもたちが、まさにこれから社会に出ようとするころです。

 ただ、AI、機械学習、STEM、といったワードは耳にするものの、具体的に何が必要なのか、どんな時代になるのか、いまひとつイメージしきれていない親も多いのではないでしょうか? そこで、日経DUALでは、これからの時代を生きるうえで有利と言われている『理系脳』について、考えてみたいと思います。

 第3回目は、グローバル基準の保育方針を実践する世田谷区の幼児園「ファースト・クラスルーム」の園長・橋井健司さんに、幼児期における理系脳の育て方についてお話を伺います。理系思考を身に付けて卒園させることが一つの目標だという橋井さんの園では、どのような保育をしているのでしょうか?

【理系脳を育てる遊び方・学び方 特集】
第1回 これからの時代は「理系脳」でないと生き残れない
第2回 理系脳を育む 最新のテクノロジー体験と空間遊び
第3回 幼児期 理系思考は手指を動かすことで育つ ←今回はココ!
第4回 6歳までは数字に多く触れて でもドリルは必要なし
第5回 小学生 算数で理系脳を鍛えれば、国語も付いてくる

理系思考は手指を動かさなければ育たない

 世田谷区経堂で幼児園「ファースト・クラスルーム」園長をしています橋井健司です。世界で活躍できる子を育てることを方針とした「ファースト・クラスルーム」を開園して10年、たくさんの子どもたちを見てきた経験から、お話したいと思います。

 まずはじめに、私の考える理系脳というのは、理系思考を持っているということです。理系思考とは「分からないことに直面したときに、自分の力で論理的に考え、試行錯誤しながら発展させていく」能力のこと。決して数字や図鑑に関心が高い=理系思考が強いという意味ではありません。

 その理系思考を育むうえで、私が何より大切にしているのは、手指を巧みに動かすこと。これをやらない限り、理系思考は育たないと思います。粘土、ブロック、あやとり、指編み、折り紙などで手先を動かすことで知能を刺激すること、そして作業を通したフロー体験の積み重ねがとても重要だと考えています。

 フロー体験とは、時には周りも目に入らなくなるくらい、何かに没頭すること。子どもたちはこのフロー体験の積み重ねによって、集中力と思考力を養っていくのです。集中しているというと、ひと言も言葉を話さず、身体をほどよく緊張させながら何かに取り組む姿が象徴的ですが、足をぶらぶらさせながら集中する子もいれば、場所を移動しながら集中を持続する子もいます。幼児期はまだ頭の中で操作しながら考えることはできないので、何かを考えたり集中するときには体を動かしていることもあるんですよね。

 このように手指を動かすことをとても重視して、それを教育に取り入れたのがマリア・モンテッソーリです。彼女は手を動かすことが最も人格形成に重要だと考え、それを柱にモンテッソーリ教育を作り上げていきました。

<次のページからの内容>
● 絵本が大好きな子、安心しないで
● 理系=男子向きではなく、幼児期は個人差が大きい
● 発達の凸凹を吸収してくれる異年齢遊び
● OSができるのは6歳まで
● 自分で疑問を見つける力が何より大切
● 科学教室に行っても、フロー体験や原体験のない子は多くを学べない