男性の家事・育児参画を応援する、東京都のウェブサイト「パパズ・スタイル」。厚生労働省が「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、家事・育児に積極的な「イクメン」が注目されてからもうすぐ10年。「パパズ・スタイル」では、環境が大きく変わる中で頑張るパパたちを応援しています。

2020年がはじまって早くも3カ月が過ぎ、もうすぐ新年度。東京の男性の家事育児は、これからどう変わっていくのでしょうか。男性の家事・育児参画の研究について30年以上関わるお茶の水女子大学の石井クンツ昌子教授にお話をうかがいました。

■他の地域に比べ、制度が整っているのが東京の利点

 男性の家事・育児参画研究で30年近いキャリアがあり、『「育メン」現象の社会学』などの著書を持つ石井クンツ昌子教授。「私が調査をはじめた30年前は、家事や育児をしている男性を探す方が大変でした。それが今では短くても育休を取得したり、スーツで子どもを保育園に送り迎えしたりする男性も増えてきた。現実的な課題はまだたくさんありますが、大きく変化してきたと感じます」と話します。

お茶の水女子大学教授の石井クンツ昌子教授。家族社会学やジェンダー社会学を専門に、家庭内の性別役割分担や男性の家事・育児参画の国際比較などを研究している
お茶の水女子大学教授の石井クンツ昌子教授。家族社会学やジェンダー社会学を専門に、家庭内の性別役割分担や男性の家事・育児参画の国際比較などを研究している

 石井教授によれば、日本国内で比較したとき「東京は他の地域に比べ、家事育児をする男性への理解度が高い」。

 「東京は他の地域に比べ、育休や時短勤務などの制度が整っている企業が多くあります。こうした制度を社内で誰かが活用すると、ロールモデルができて感心が高まり、次につながっていく。こうした利点は確実にあると思います」

 これまで女性にやってもらうばかりで気付けなかった家事ができるようになったり、子どもと過ごす時間が増え、子どもに頼られる機会が増えたりと、育休制度などを活用して男性が家事育児にかかわるメリットは多くあります。

 「育休を取得した男性の多くが、取得前に比べて自身が成長したという実感を持っている場合が多いです。こうした経験は実際に家事育児に関わらないとできないことなので、ぜひ多くの父親に体験してほしいです」(石井教授)

 制度が整っており活用しやすい環境にある東京は、日本の男性の家事育児参画を牽引する存在だといえそうです。

■家事・育児文化は浸透したが、行動はこれから

 ただし、石井教授は「東京は意識が高い半面、実際の家事・育児頻度は低いという結果もある」と話します。

 「東京の男性は家事・育児の文化は浸透していますが、行動はこれから。文化と行動の浸透にはタイムラグがあるものです。アメリカでも男性の家事・育児研究には文化の浸透が先立ち、行動は現在も根づいている最中。東京でもイクメン文化が浸透して制度が整うことで、行動に移す男性が増えていくのでは」(石井教授)

 行動に先んじて文化が浸透している状況からは、今後の男性の家事・育児の課題もみえてきます。それは、男性が理想と現実の間で板挟みになってしまうことです。

 「イクメン」という理想像を目指そうとしても、労働時間を調整できない、職場からの理解を得られない、育児経験が少なくうまくできないなどの障壁に阻まれてしまうことが多々あります。にもかかわらず、女性からは「全然やっていないのに、ストレスを感じるなんて」とつらさを理解されず、男性がストレスを抱え続けてしまう可能性も。

 「イクメンという言葉はポジティブな印象が強いですが、実際の家事育児はそれだけではなくて葛藤を抱えながらこなしていくもの。その過程にはさまざまなストレスが発生します。そのことを女性や周囲の人は理解する必要がありますし、男性自身も自分が感じている心の声にきちんと耳を傾ける必要がありますね」(石井教授)

■キーワードは「シェア」「ケア」「フェア」

 これからの男性の家事・育児参画を考えるにあたって、石井教授も参加する研究会では男性の変化のための3つのキーワードとして「シェア」「ケア」「フェア」を挙げています。

 「シェア」は責任と利益を女性と共有すること、「ケア」は他者を援助し、自分を大切にすること、「フェア」は女性や他の男性の立場や考え方を尊重することですが、この中の「ケア」には他者に悩みを打ち明けたり、相談したりして自分の心を大切にする「セルフケア」も含まれています。

 石井教授は「弱音を吐くのは男らしくないという文化で育っている男性が多いため、他者に助けを求められないまま抱え込んでしまうことは少なくありません」としたうえで、家事育児に取り組む男性に「一人で抱えて、孤立してしまわないで」とメッセージを送ります。

 「インターネット上のコミュニティや地域の親同士のコミュニティなどがあれば、積極的に参加してみることをお勧めします。こうした場で家事や育児に関する不安や、仕事と両立する上でのストレスを吐き出すことは、精神的に大きな支えになるはず。東京都をはじめ全国の市区町村では父親を対象にしたイベントなども開催されており、悩みを共有できる新たなつながりを作る機会になります。ぜひ足を運んでみてください」(石井教授)

 「イクメン」が注目されてから10年で、男性の家事育児への意識は大きく変わりました。その進歩の過程で、次なる乗り越えるべき壁として「理想と現実の間に板挟みになる男性」の姿が浮かび上がってきています。

 「イクメン文化」が浸透した東京で、「イクメン行動」を続けていくために大切なのは、一人で抱えこまないこと。女性やパパ友と悩みをシェアし、互いの立場をフェアに尊重しながら相手を、自分をケアすることで、心身ともに健康な状態で家事・育児に取り組むことができるはずです。

 東京都が運営する「パパズ・スタイル」では、そんな男性の家事・育児にまつわる情報が充実しています。今回は小池都知事とゲストが男性の家事・育児について語り合ったイベント「女性が輝くTOKYO懇話会『職場が変わる! 意識も変わる!! ~パパズ・スタイルはじめよう~』」のレポートを掲載。ぜひ読んでみてくださいね。

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(取材・文/小沼理[かみゆ])