東京都が開設した男性の家事・育児参画を応援するウェブサイト「パパズ・スタイル」。厚生労働省が「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、家事・育児に積極的な「イクメン」が注目されたのが2010年のこと。それから9年の間に、パパたちを取り巻く状況は大きく変わってきました。必死でこなすうちに、いつの間にかやりがいを見出したパパもいるでしょう。一方で、日々の仕事に追われてなかなかできていないパパもいるかもしれません。

 世間的に注目が集まるにつれて、家庭の家事・育児問題に悩む人も増えてきました。男性、女性、それぞれどんな悩みや問題を抱えているのでしょう。男性が本当に家事や育児を自分ごととして考えるために必要なことを、夫婦問題カウンセラーの高草木陽光(たかくさぎ・はるみ)さんにうかがいました。

■家事・育児の悩み相談は増加傾向

 夫婦問題の専門家であり、「HaRuカウンセリングオフィス」の代表としてこれまでに7000件以上の夫婦カウンセリングを行ってきた高草木陽光さん。高草木さんは「共働き夫婦による家事・育児の悩み相談は、近年増えてきている」と話します。

夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さん。カウンセリングの経験を活かし、著書『なぜ夫は何もしないのか なぜ妻は理由もなく怒るのか』(左右社)も執筆している
夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さん。カウンセリングの経験を活かし、著書『なぜ夫は何もしないのか なぜ妻は理由もなく怒るのか』(左右社)も執筆している

 高草木さんのもとを訪れる相談者は、男女が半々程度。女性からは「夫が家事や育児をまったく手伝ってくれない」という相談を受けることが多いそうです。

 「世の中が変わってきたとはいえ、『家事や育児は女性の仕事』という価値観が根強く残っている男性も多いです。また、こうした考え方は女性にも残っていて、女性も自信を持って家事や育児をお願いできない。こうした固定観念が問題の原因の一つだと思います」(高草木さん)

 一方、男性は「家庭の悩みを誰にも相談できず、抱え込んでしまっているケースが多い」。家事・育児に協力したい気持ちはあっても、うまく機能していないパターンも増えているようです。具体的には、どのような悩みがあるのでしょうか? よくある相談と、問題解決のための高草木さんからのアドバイスを見ていきましょう。相談者は男性ですが、男性・女性それぞれに対してアドバイスをいただきました。

■家事ができる男性も、きっと文句を言われながらやってきた

CASE1
相談者 僕としては、仕事も家事も頑張っているつもり。それなのに「あなたは何もやっていない」と怒られてしまいます。

高草木さん 本当に頑張っているのに女性に伝わっていない場合、努力する方向がずれている可能性を考えてみた方がいいでしょう。男性が良かれと思ってやっていることと、女性が本当に望んでいることがずれているケースはよくあります。

 大切なのは「自分はこういう風に家事・育児に関わりたいと思っている」と、きちんとコミュニケーションを取ること。そうすれば、「私はこういう風にしてほしい」とフィードバックがあり、軌道修正ができるはずです。

 「何もやっていない」と伝えた女性は、その言葉が本当に正確だったかどうかを確認してみてください。「何もやっていないに等しい」という意味かもしれませんが、たとえば張り切ってお皿を洗ってくれている男性にこう言ってしまうと、次からのやる気を削いでしまうかもしれません。

 こうした言葉上での行き違いは、家事をお願いするときにも起こりやすいです。女性の場合は「皿洗い」と言った時に、お皿を洗って、水を切り、棚にしまうまでが1セットですが、男性はお皿を洗うところまでしか想像できないことがある。きちんと詳細や流れまで教えてあげないと、少ない言葉で自分と同じレベルの家事をいきなりできる男性は少ないでしょう。今家事ができる男性も、きっと家族に文句を言われながら学んできたのだと思いますから。

「男性に家事・育児を自分ごととして考えてもらう」その目標を見誤らずに

CASE2
相談者 自分には、家事に関わりたい気持ちはあるんです。でも、不機嫌に「やらなくていい」と言われてしまい、手を出せずにいます。

高草木さん 女性側が諦めてしまっているケースですね。このパターンで相談に来る男性は少なくありません。こうした場合、女性が諦めてしまうのにも過程があるので、なぜそうなっているのか一度考えてみましょう。おそらく、お願いされたことをついやらなかったり、求められるレベルまでできなかったりしたのではないでしょうか。

 そうなると、「やらなくてもいい」と言ってしまう人の気持ちもわかります。ただ、それでもやっぱり僕はサポートしたいというのであれば、根気強く教わる姿勢が必要です。この時、コミュニケーションを怠って勘で動くとまた怒られるので、必ず「何かやれることはある?」と聞くようにしましょう。

 そこで「特にない」と言われても、何度も声をかけ続けることで変わる部分もあると思います。声に出して喜ばなくても、繰り返す中で「気を使ってくれているんだな」「大変なのをわかってくれているんだな」と感じるはず。そうなれば、女性も「ちょっとお願いしてみようかな」という気持ちになるかもしれません。

 女性に対しては、きっと家事・育児の行き違いの末に諦めてしまったのでしょうから、気持ちはわかります。ただ、本来の目的は家事・育児を手伝ってもらうことで自分の負担を減らし、男性にも自分ごととして捉えてもらうことではないですか。その目的を見誤ると、いつまでも状況は変わりません。

 自分の求めているところまで完璧にはできていなくても、褒めてやっていくことが大切です。そうすればいつの間にか成長して、やれることが増えていく。そうすると自然に動いてくれるし、自分ごととしても考えてくれるようになるはずです。

コミュニケーションは“I message”で

 2つのケースを見てみると、基本的なコミュニケーションを怠った結果、行き違いが起きていることがわかります。高草木さんは「相談者の中には離婚を考えてやってくる人もたくさんいますが、浮気や不倫、暴力といった問題以上に『小さな積み重ね』で修復不可能になるケースは多い」と話します。

 「一つ一つは些細なことなので、男性もつい聞き流してしまいますが、5年、10年とそれが続くとその負担は相当なものになります。たとえば、少し前には男性が家事を『手伝う』と言うことに女性からの非難が集まりました。こういった言葉一つで感情を爆発させてしまうのは、それだけ『私ばかりが家事を負担している』という不満が募っているからではないでしょうか」

 不満が募っていると、つい伝え方も感情的になってしまいます。しかし、「感情的になると、怒りだけが伝わってしまって本来お願いしたかったことが伝わらなくなります」(高草木さん)。そこで高草木さんが提唱しているのが、“I message”なのだそう。

 「相手に何かを頼む時、『ごろごろしていないで手伝ってよ』『ちょっとあなたもお皿洗ってよ』という風に、“あなた”を主語にするときつい言い方になりがちです。“あなた”を主語にする“YOU message”ではなくて、“わたし”を主語にする“I message”を心がけると、やわらかい言い方になります。『私が料理を作っている間に、洗濯物を干してくれると助かるんだけど』『掃除をしてくれるとうれしいな』という言い方です。その方が素直に動いてくれる人は多いんですよ」

 些細なことだと軽視せず、日ごろのコミュニケーションや伝え方を工夫してみること。それをやるかどうかが、男性の家事・育児を諦めてしまうか、二人で家事・育児をこなせる「チーム」になれるかの分かれ道になりそうです。

 「パパズ・スタイル」でも、男性・女性それぞれの立場から見た家事・育児参画のヒントが多数掲載されています。ぜひ合わせてチェックして、夫婦で、家族で考えてみてください。

■パパズ・スタイルはこちら

(取材・文/小沼理[かみゆ])