家族以外の「セーフティーネット」を作る努力を

 こういう時代だからこそ、子どもを取り巻く人間関係を「セーフティーネット」としてどう築いていくかが大きな課題になるでしょう。普段から、家族以外の「自分のことを大切に思ってくれる大人」にたくさん会わせてあげてほしいと思います。その中で子どもは「やっぱり自分は大事にされているんだな」ということを感じ、自己肯定感が育まれます。

 ママやパパは日ごろから、連絡帳などを上手に使って保育園や学校の先生に丁寧に情報を伝える努力をしておきましょう。一方的にお願いする関係ではなく、意見交換ができる信頼関係まで築いておくことが大事です。

 先生方はママやパパからの情報を楽しみにしていますから、「ご飯は何を食べた」「何時に寝た」など単純な事実だけでなく、「お風呂でこんなことを話した」など、良いことも悪いことも幅広く書くことをお勧めします。いじめの問題は先生たちとの連携がないと解決しづらいことですが、何かあってから先生との信頼関係を築こうと思っても、なかなか難しいためです。

 そして、子どもとも「いじめを見たとき、どんな気持ちだった?」「もしいじめられたらどうやって解決していこうか」「何かあった時には家族みんなで考えたらいいじゃない。みんなで考えたらきっといい方法が見つかるね」などと、問題が起こる前にいろいろと話しておくことが重要です。

 そうすれば、何かあった時にもママやパパに話しやすくなると思います。小学生になるといじめられたことを隠すようになったりしますが、それはママやパパを悲しませたくないからです。伝えてくれた時には、「よく話してくれたね」「自分はどうしたかったの?」「許せない気持ちも分かるよ。だっていじめはよくないもんね」「ママやパパも悩んだな~」と共感しながら聞き、まず安心させてあげてほしいと思います。

 「嫌だったら逃げちゃえばいいのよ」「仲間外れにされていたら、入れてあげなさい」など、つい答えを言ってしまいがちですが、子ども同士の関係に大人が介入していいことはありません。「こういう時はどうしたらいいんだろうね」と寄り添いながら、お子さんがどんな選択をするか楽しみにするくらいの余裕を持てるといいですね。ママやパパが白黒付けることなく、「本人に考えさせ、決めさせ、それを支援する」という意識を忘れずにいてくださいね。

 どうしても子どもたちの関係に介入したくなる方は、もしかすると「自分が仲間外れにされたくない」という気持ちが強いのかもしれません。

 そういう時には、自分の中の「自律ルール(自分がいい状態でいるためのルール)」を意識しましょう。例えば私自身は一生の中で、「本当のことをすべて話せる友人は二人いればいい」と思うようにしています。そうすると、他の人付き合いで何かあったとしても大きく不安になることはありません。皆さんにそんな「心を開いて話せるような友人」がいるのであれば、一人でいることを怖がらないでほしいと思います。

わが子がもし「いじめる側」だったら

 また、お子さんが「いじめる側だった」というのもつらい経験だと思います。誰もわが子がいじめる側にいるとは考えたくないため、聞かされたときのショックは大きいでしょう。周囲にも謝り続けることになりますし、なにより「どうしてそんなことをする子になってしまったんだろう」と、自分自身の子育てを振り返らざるを得なくなります。

 「いじめる子」は、大人との信頼関係の中に「認知のゆがみ」があることが多いのが特徴です。幼児期は大人が意識して関わっていけば、すぐに良い方向に変わっていきます。暴力や暴言などが出るときは「どうしてそんなことをするのかな?」と聞き、本人が意識してコントロールできるようサポートしていきましょう。

 以前、毎朝のように怖い顔をして登園してくる子がいたので「『おはよう』ってニコニコしていたら、気持ちが明るく変わるらしいよ」と声をかけたところ、にっこり笑って「ほんとだ、気持ちが変わるね」と返してくれたことがあります。その後クラスで「『おはよう!』と言って、みんなで笑おうよ。そうすると、みんなはどんな気持ちかな?」と投げかけた時は、「いい気持ち!」と一生懸命応えてくれました。

 子どもにとって、大人の関わり方は本当に大きい影響があると思います。最初にお話ししたように、いじめは子どもだけの問題ではなく、私たち大人のあり方が問われているのです。合わないお友達を排除して「自分たちだけが楽しければいいや」と子どもが思うことがないよう、創意工夫してみんなで楽しめるようにサポートしていくのが、私たち大人にできることではないでしょうか。

イメージ写真/鈴木愛子