ユーモアを交えた教え方をすれば自然と身に付く

 園で困ってしまう場面としては、ちょっとしたいさかいからお友達同士で手が出てしまうことがよくあります。

 例えばお弁当を食べているときに、お隣同士が少しぶつかったことで「ここはぼくの場所なんだよ!」などとケンカが始まり、そのうち「たたき合い」にエスカレート。「お口で言いましょう」「たたくと痛いでしょう?」と注意してその場は収まったとしても、「つい手が出てしまう」癖はなかなか直りません。

 子どもたちと話し合ってみると、みんな「お友達をたたいちゃいけない」というのは頭では分かっているんです。でもふざけ合っている間に、気持ちがヒートアップしてしまうのでしょうね。

 そこであるとき、クラスの子どもたちを集めて、「知っていますか? みんなの体の中には小人(こびと)さんがいて、えっちらおっちら食べたものを体のあちこちに運ぶお仕事をしているんです。たたくと、ごはんを運んでいる小人さんたちが痛がるんだよ」という話をしました。

 するとそれ以降、ケンカが始まると子どもたち自身が「やめてくれよ! ぼくの中の小人さんが痛がってるよ!」と言うようになり、そのうちにみんなお友達のことをたたかなくなりました。

 子どもたちは、本当に「楽しいこと」が大好きなんだな、と感じます。ファンタジーや興味・関心に寄り添いながらユーモアを交えて提案することが、いろいろなことが身に付く一番の近道のように思います。

 人は、緊張した中ではなかなか学んでいくことはできません。頭ごなしに叱るだけでは子どもにもうまく伝わりませんし、びくびくして失敗を過度に恐れてしまうようになります。子どもは失敗しても、「大丈夫だよ」と優しく自分の側にいてくれる人が大好きです。「叱られて怖い」という思いは、幼児期には必要なものではありません。

 そして、本来はとても穏やかで、そんなに叱られるような悪いことはしないのが子どもたちです。親の前では自分でできないことも、保育園や幼稚園ではけなげにやっていたりするんですよ。親は、子どもが上手にできないことがあると不安になりますが、ユーモアを持って向き合ってあげていると、いつの間にかできるようになるものです。

 成長してから「パパやママがあんなこと、面白おかしく言ってたな」と、笑って思い出せるようにしておいてあげるといいと思います。真正面から向き合い過ぎて傷つけてしまった結果、子どもが萎縮して自力で伸びられなくなってしまうこともあります。

 いつも余裕がなくて大変な毎日だからこそ、大事になるのが「ユーモアの力」です。「余裕がない」ということを言い訳にしていてもつまらないし、現実は変わりません。でも、家族みんなでユーモアを交えて話す習慣を付ければ、笑い声が絶えず、自然と心に余裕ができていることに気付くはず。

 大人同士のコミュニケーションにも言えることですから、ぜひ子どもたちのユーモアから学んでもらえたらと思います。

(イメージカット/鈴木愛子)