元気すぎるキャベツがバケツから飛び出した

 以前、私が幼稚園の先生をしていたときのことです。子どもたちと一緒にたらいのテーブルを囲み、キャベツを切ってうさぎのエサを作っていたことがありました。

 子どもたちは何度言っても、切ったキャベツをバケツには入れてくれず、ふざけてキャベツが散らかるばかり。私だけが、地面に落ちているちっちゃなキャベツを一つずつ拾ってバケツに入れる、ということを繰り返していました。

 一生懸命、「土がついたキャベツをうさぎさんが食べるのは嫌じゃない?」「ちゃんとバケツに入れようね」と説明するのですが、子どもたちは一向に聞いてはくれません。今思うと、きっとそのときの私は「切ったキャベツをバケツに入れるよう教えなければいけない」という「ねばならない」モードだったのだと思います。

 一方の子どもたちは完全に「お遊び」モード。でも、ある瞬間に「ポン!」とバケツから飛び出てしまったキャベツを見て「今日のキャベツは元気だねぇ!!」と言ってみたら、子どもたちはゲラゲラ笑って、「キャベツさん、げんきすぎるとダメだよ~!」と言いながら、自ら進んで拾ってバケツに入れてくれるようになったのです。

 それまではいくら言ってもやってくれなかったのに、「こんなにすんなりと目的が達成されている!」ということが私にとっては発見でした。

 次の日からは「今日のキャベツは元気かな!?」と言いながら、子どもたち自ら楽しんでバケツに入れてくれていました。私自身が「ねばならない」「怒っちゃいけない」とただ我慢しながら向き合っていたときには、子どもたちにとって嫌なお仕事だったことが、「元気なキャベツ!」と言った瞬間から景色が変わったのです。

 この経験は「ユーモアの力」について考えるきっかけとなりました。正しいことは、正しいと伝えることも必要なことですが、一方で人が学ぶときに必要なのはやはり“ユーモア”なのだなとも思います。子どもだけでなく、大人だって楽しくないとなかなか学べませんよね。