母親に首絞められ、一気に自己否定へ 手帳もゴミもチェック

 母親は、ゆりなさんが幼い頃から過干渉を続け、絶対的な存在として君臨していました。ゆりなさんが小学5年生で中学受験の勉強を始めると、学習でつまずいた時などに怒りを爆発させ、暴力を振るうこともありました。

 「なぜこんな問題も解けないんだ!」

 ある日、母親はこう叫んでテーブルにペンを何度も何度も突き刺し、ゆりなさんの首を絞めました。強いショックを受けたゆりなさんは、包丁を持ち出して自分の首に突きつけ「私はなんで生きているのかな」と泣き叫びました。

 「母親は価値観のすべてで、彼女に否定されることは、世界から否定されることでした」

 この出来事以来、ゆりなさんは自分を大切にする意味を見失っていきました。「今もリビングのテーブルに残されたボールペンの痕を見ると、『生きている価値なんてあるのか』という当時の感情を思い出します」

 母親は、ゆりなさんが成人してからも手帳を盗み読みし、ごみの中ものぞき見ます。ゆりなさんの外出時、必ず玄関先まで出て来て身なりをチェックすることも、つい最近「監視されているように感じて、嫌なの」と母親に話すまで続いていました。

うまく立ち回ることを自分に許さない 「いばらの道」選ぶ結果に

 ゆりなさんは人生を通じて、周囲が無造作に口にする言葉に傷つけられてきました。小学校の委員会活動に少し遅刻した時、同級生が投げつけた「あんたクビね」というせりふ。中学2年生の時はいじめを受け、背後で聞こえよがしに悪口を言われました。

 就職先でも先輩にきつく当たられ、「残業代がもったいない」「やっていることが無駄」などと叱責されました。この先輩を乗せて車を運転していた時、緊張のあまり人身事故を起こしかけ、それをきっかけに仕事を休職することになります。

 ゆりなさんは、「分かっていても、自分が苦しむ道を選んでしまう」と話します。外から見てもそれは明らかだったようで、親戚に「この子はどうして『いばらの道』を歩いてしまうんだろうねえ」と言われるほどでした。

 「要領よく立ち回ることを自分に許せないんです。『世渡り上手』になったら、私も彼らのように誰かを傷つけてしまう。過去の自分を裏切ることになると思い、意識的に不器用に生きてきました。母親が、要領のいい人に批判的なことも影響していると思います」

 休職後、ゆりなさんはとうとう本当に家から出られなくなり、ひきこもってしまいました。 カーテンを閉め切り、食事以外のほとんどの時間をベッドの上で過ごす毎日。3カ月間と決して長くはありませんでしたが「寝ても覚めても苦しかった」と振り返ります。再就職した今も「仕事でつまずいたら 、ひきこもりに逆戻りしてしまうかもしれない」という不安は消えていません。